遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。これまでの商慣習や仕組みが変わり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。


今回は、不動産仲介の業務支援サービス「プロポクラウド」を提供するハウスマート(東京・中央区)・針山昌幸社長に話を聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

ハウスマート・針山昌幸社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―提供されているサービスの概要を教えてください。

当社が2019年3月にリリースした「プロポクラウド」は、売買仲介事業者に向けたサービスです。不動産を探している方、買い顧客のクロージングを手伝います。

買い顧客は、検討から成約までの期間が長く、数カ月から数年かかることも少なくありません。「プロポクラウド」は、営業社員が地道にやっていた長期検討顧客の追客業務を自動化します。

「プロポクラウド」画像提供=ハウスマート

ポータルサイトや自社HPから問い合わせがあった際、送られてきた顧客情報を「プロポクラウド」に登録すると、ニーズにマッチした物件情報がメールで自動的に送信されます。毎日、最大で朝晩2回、1通当たり3物件、紹介できる物件がある限り提案し続けます。

営業担当者は管理画面で、自分が担当している顧客を一覧で確認し、送ったメールのリアクション状況や動きを見ることができます。

顧客が、メールの文面から物件詳細をクリックすると、物件の詳細情報ページに遷移します。「いいね」「興味なし」といったリアクション機能、そのまま物件見学の申込みを行うことも可能です。

顧客が詳細情報まで見ているのか、物件情報に「いいね」を押しているのかなど、顧客の動きが可視化されるため「顧客がまだ家を探しているのか」が分かります。

また、過去に顧客が詳細画面を見た物件で、価格が変更された際にも自動でメールが送られるようになっています。いままでは営業担当者がリアルタイムで物件の価格変更をチェックすると、非常に手間がかかっていました。そういった部分も「プロポクラウド」が自動で行います。

―どんな物件情報が送られるのでしょう。

当社で、オリジナルの物件情報データベースを構築しています。

「プロポクラウド」が他社サービスと異なるのは、物件のデータベースを当社が持っており、営業担当者が物件情報を入力・登録する必要がないということです。

―物件情報はどうやって集めているのでしょうか。

ウェブ上からオープンデータを広く集めています。集めた情報には、重複したデータもありますので、AIを使い名寄せを行います。

現在は関東一都三県のエリアで、世の中で売りに出されている中古マンションを対象にしています。

―「プロポクラウド」が提案した物件で、顧客から内見予約があった際には、物元の事業者に営業担当者が連絡するという流れですね。

「プロポクラウド」は、物件情報それぞれが、どのサイトやHPから集めてきているのかを明記しています。内見予約があった場合は、元付けの事業者に連絡いただきます。

―導入している企業はどれぐらいでしょうか。

現在、60以上の店舗に利用いただいています。

まだ、売買仲介のなかでも実需の中古マンションが対象で、エリアも一都三県に限られています。

まず、1店舗で始めてみて、結果が出たら他の店舗にも広げていくケースが多いですね。登録してから3カ月~6カ月くらい経つと内覧や成約が発生し、効果を実感いただいています。

―実際に、どういった成果があるのでしょうか。

メールを自動送信し続けるので、顧客情報を登録して数カ月くらいして顧客から連絡があった、といった話は結構あります。

ある企業では、元々買いの追客に手が回っていないなか、「プロポクラウド」を導入して3カ月で3件の成約がありました。短期間で約400万円の売上があがり、費用対効果の高いサービスとお声をいただいています。

断続的にメールを送って接点を持ち続けているので、何かのタイミングで連絡が来やすい関係性を顧客と営業担当者の間で築くことができます。

ハウスマート・針山昌幸社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―不動産仲介事業者は「長期的な追客が苦手」という印象があります。不動産の取引がワンショットで終わってしまうため、どうしても見込みが高い顧客を優先してしまい、見込みが低い顧客はおざなりになってしまう。

今月購入しそうなA顧客、中長期のB・C・D顧客というように、顧客の見込みをセグメント分けしている企業が多くいらっしゃいますね。

B・C・D顧客に対して「プロポクラウド」を使っていただくことが多いです。営業担当者の時間は限られています。営業担当者が時間を一番割くべきは今月購入しそうなA顧客。長期の顧客はシステムの力と少しの営業担当者の時間をかけて追客していただく。

そもそも、売買仲介事業の柱となるのは、売り物を預かることです。客付けとなると顧客の温度もバラバラで見込みが立たず、注力できずにいます。

ただ、導入企業の話を聞くと、毎月の売上を安定させたいと考えている経営者はかなりいらっしゃいます。

売買仲介は毎月の変動が大きいので、安定させることを考えると、まず売りを集めながらも、買い顧客を有効活用することが重要です。そこで、中長期の顧客を自動で温める機能が必要になるのです。

―自動でメールを送るだけで、真剣に物件情報を見てもらえるのでしょうか。

「プロポクラウド」メールは、開封率が高いことも特徴です。

平均で50%を超えています。

一般的なメルマガサービスは、平均10%前後ですが、「生もの」である売り物件情報が載っているため開封率も高い。

また、メールには営業担当者の顔写真と名前が載っているので、会社や担当者の情報が顧客にどんどん刷り込まれていきます。実際に会ったとき、すでに信頼関係が築かれた状態から接客に入ることができる、という声もあります。

社内では「信頼構築マーケティング」と言っているのですが、最初から信頼関係ができていると、提案する内容が伝わりやすいようですね。

ハウスマート・針山昌幸社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―ハウスマートが不動産会社に向けたサービスを提供するきっかけは何だったのでしょうか。

サービスが生まれたきっかけは、私の原体験が大きいですね。私の社会人キャリアは不動産会社からスタートしています。

学生インターンと正社員を含めて丸3年間、建売や中古マンションの仲介、開発用の土地仕入れなどを経験しました。

そのなかで、売買仲介というのは凄く難しいビジネスだと感じました。

顧客からの買いの問い合わせをいただいても、すぐに買っていただけない。人生で一番高い買い物なので、2年くらい考える人もいる。

また、長期検討顧客に対してフォローアップするには、非常に手間がかかりました。

レインズなどで良い物件が出てくると、1人ひとり手打ちでメールを作ります。物件の概要やおすすめポイントなどを書いて、物件チラシのPDFを添付して送る。返信が来ることなんてほとんどありませんから、提案している物件が顧客に刺さっているのかも分かりませんでした。

提案が刺さっていなかったとすれば、どのように提案を変えれば良いのか、そのヒントすらない。そうなると、だんだんと顧客を放置してしまう。上司に進捗を聞かれて、あわてて顧客に電話すると「他社で買いました」という話になります。

これは解決したいと感じつつ、その後インターネット通販の楽天に転職し、システム開発やウェブマーケティングについて学ぶなかで、「不動産ビジネスでも、もう少し顧客の方を向くことはできないのか」という意識も生まれました。

―具体的にはどういったことでしょうか。

不動産仲介営業の現場は、毎月の目標金額が高く設定されて、どの営業担当者も多忙です。

しかし、人によって検討期間が大きく違い、購入意欲もかなり温度差がある。結局、今月・来月にでも買ってもらえそうな顧客に集中してしまう。それ以外の顧客に対しては、時間がないので「何かあったら連絡してください」と、切らざるを得なくなるんですね。

営業担当者の本心としては、長期検討顧客にだって、もっときちん向き合いたいと思っているのですが、目標金額を考えると、手っ取り早い客に注力するしかなかった。

―客付け営業や、投資系では「押し込む」といった言葉があるように、長期追客の顧客であっても、口説き落とすことで無理矢理契約させることもありますね。

営業を平準化し、再現性のある営業活動ができれば「顧客の方を向いた」ビジネスができると思います。

ノルマだけを意識して、目の前の客にだけ力を注ぎ、何とか契約をとることを美化する風潮もありますが、本来であれば毎月コンスタントにノルマを達成できる方が良い。

優秀な営業担当は、当月決まる顧客を2~3人持っていて、毎月確実に達成していますから。


ハウスマート・針山昌幸社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―今の不動産営業をどのように感じていますか。

もっと報われるべきポジションだと思っています。

よく聞く話ですが、アメリカでは不動産エージェントはリスペクトされていますが、日本では逆です。

「営業が採用できない」業界になってしまっています。

土日勤務で平日休み。昔のように「年収○○千万円」といった稼ぎ方もできなくなっています。業界全体の課題として、不動産営業のキャリアを真剣に考えるべきタイミングに来ていると感じています。

―欧米の様に、日本の不動産プレイヤーの社会的立場が向上しない原因は何でしょうか。

大きな要因として、労働生産性の差があると思います。

実際、日米で不動産従事者の労働生産性を比べてみると、かなりの差があります。

アメリカの不動産従事者の労働生産性を100とした場合、日本の不動産従事者の労働生産性は28.4%だった(出典=経済産業研究所「産業別労働生産性の国際比較:水準とダイナミクス」)

日本が低い理由の1つ目は情報が透明化していないからです。

透明化されれば、顧客がすぐに情報にアクセスできるため、長期間悩む必要がありません。取引の回転率も上がるでしょう。

2つ目は、分業化が進んでいないことです。

不動産に限らず、日本は業務を分業することを否定する風潮があります。業務を分業できれば、1つ1つの業務に特化していくため生産性が向上します。

また、分業できなければ、営業担当者1人で対応するため、業務や提供するサービスが一定のクオリティまでにしか達しません。

情報が透明化していないことやテクノロジーを活用しないことで、生産性が低くなり、分業化することもできない。

徐々に、日本でも透明化やテクノロジー活用の兆しが出てきています。

これから、中古流通が進み不動産の流通量が増えれば、営業担当1人当たりの売上・生産性は高まるでしょう。すると、分業化の動きも出てくると思っています。分業化が進むと、不動産営業のサービスが向上され、優秀な人材が集まってくる業界になると思います。

―そういった不動産業界に対して、どのような不動産テック企業が必要とされるでしょう。

不動産業界には長い歴史があります。他のITサービスやSNSのように、たかだか10年で生まれた業界ではありません。また、ステークホルダー(利害関係者)もたくさんいる。

私は「憑依する」と言っていますが、利用いただくユーザーになりきってサービスを考えることが重要だと思っています。サービスの開発者やエンジニアが直接ユーザーに出向いて、教えてもらう。理解したうえでサービスを作っていかなければ本質を捉えたものになりません。

当社のエンジニアやデザイナーも、よく不動産会社に伺っています。

―将来の展望はありますか。

当社のミッションは「住を自由に」です。

住まいをもっと自由にしていきたい。そのためには、エンドユーザーと不動産仲介事業者の両方が幸せな関係性を築くことが大切だと思っています。

まだ時期は決まっていませんが、なるべく早いタイミングで「プロポクラウド」を戸建て・土地にも対応できるようにして、エリアもさらに拡大できるようしたい。

現在は限られたエリアと物件種別ですが、データベースを拡充し、全国の様々な不動産仲介事業者に使っていただく。そして各仲介事業者の売上向上に貢献したいと思っています。

 
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