新ビジネス「宿泊サブスク」や旧来型「ウィークリーマンション」を合法化!
専門家が民泊法改正を提案する理由

画像=写真AC
前回の連載では、2021年に予定される住宅宿泊事業法(民泊法)の見直しにあたり、都市計画法や建築基準法といった諸法令との整合性を維持するためには、180日規制を維持すべきとの見解を述べさせていただきました。

しかし、ポストコロナ時代の観光産業の復活を見据え、民泊を更に普及させていくためには、どのような見直しを行うべきなのでしょうか?

筆者には大小さまざまなアイデアがありますが、連載シリーズの最終回となる本稿では、最も重要なものを1つだけ挙げさせていただきます。

それは「特区民泊の全国展開」です。

特区民泊とは?

特区民泊とは、「国家戦略特別区域法」に基づき営まれる民泊(住宅を活用した宿泊サービス)です。特区民泊の概要は、次の内閣府の資料にまとめられています。

  

出所:内閣府

以下、特区民泊の特徴を詳しく見ていきましょう。

特徴1 旅館業法の規制を受けない

住宅に滞在する利用者の滞在期間が1ヶ月未満の場合、旅館業法の規制が適用されます。

同法の許可を受けずに、住宅を1ヶ月未満の期間で利用者に提供することは、違法行為です。

ただし、特区民泊を実施している地域で、都道府県知事等の特定認定(許可)を受けた場合は、旅館業法の適用が除外され、合法的に住宅で宿泊サービスを提供することができます(国家戦略特別区域法13条5項)。

このような法的な仕組みは、民泊法の場合と同じです。すなわち、民泊法に基づく届出をした場合は、旅館業法の適用が除外され、合法的に住宅で宿泊サービスを提供することができます(民泊法3条1項)。

特徴2 衛生管理や苦情対応の義務が課される

特区民泊を営む事業者は、①施設の衛生管理、②滞在者名簿の備付、③近隣住民からの苦情対応など、民泊を適切に営むための義務を負います。

事業者がこのような義務を負うことは、民泊法に基づく届出をした場合と同じです。

特徴3 最低宿泊期間の定めがある

特区民泊では、3日から10日の範囲内で自治体が条例により定めた期間が最低宿泊期間となり、それより短い期間で住宅を提供することは禁止されます。

たとえば、自治体の条例で「3日」が定められた場合、最低宿泊期間は2泊3日となります。この場合、1泊2日の期間で住宅を提供することはできません。

このような最低宿泊期間の定めは、民泊法にはありません。

特徴4 宿泊日数の上限がない(365日の稼働も可)

特区民泊では、民泊法と異なり、宿泊日数の上限がありません。

そのため、特区民泊の施設は、年間365日稼働させることが可能です。


特徴5 実施地域が制限される

特区民泊は、国家戦略特区の指定地域であって、かつ特区民泊を定めた区域計画が内閣総理大臣の認定を受けたエリアでしか営むことができません。

2021年2月現在、特区民泊を営むことができるエリアは、東京都大田区、大阪府、大阪市、北九州市、新潟市、千葉市、八尾市及び寝屋川市のうち、指定された区域に限定されます。

筆者が提案する民泊法の改正案

それでは、民泊法をどのように改正すべきでしょうか?

筆者が提案する改正案のポイントは次のとおりです。

①各自治体は、条例で、区域を定めて、「一定の期間」を定めることができることとする。
②「一定の期間」以上の期間における宿泊日数は、180日にカウントしないこととする。
③「一定の期間」は「7日」以上の期間として定めることとする。

たとえば、ある自治体が、1~2週間程度の長期リゾート滞在のニーズが見込める区域について、条例で「7日」を定めたものとします。

すると、その区域で6泊7日以上の宿泊を受け入れた場合、その期間における宿泊日数は、年間180日の上限にはカウントしません。

結果、この区域では、1週間以上の長期滞在客を受け入れることで、年180日を超えて民泊法に基づく民泊を営むことができます。

具体的な法令の定めに落とし込むと、次のような条項を追加することが考えられます。

現行の住宅宿泊事業法施行規則(平成二十九年厚生労働省・国土交通省令第二号)

筆者が提案する改正案

(人を宿泊させる日数の算定)

第三条 法第二条第三項の国土交通省令・厚生労働省令で定めるところにより算定した日数は、毎年四月一日正午から翌年四月一日正午までの期間において人を宿泊させた日数とする。この場合において、正午から翌日の正午までの期間を一日とする。

(新設)

(人を宿泊させる日数の算定)

第三条 法第二条第三項の国土交通省令・厚生労働省令で定めるところにより算定した日数は、毎年四月一日正午から翌年四月一日正午までの期間において人を宿泊させた日数(第〇条の規定により条例で定める人を宿泊させる日数から除かれる期間以上の期間において人を宿泊させた日数を除く。)とする。この場合において、正午から翌日の正午までの期間を一日とする。

(人を宿泊させる日数から除かれる期間)

第〇条 都道府県(法第六十八条第一項の規定により同項に規定する住宅宿泊事業等関係行政事務を処理する保健所設置市等の区域にあっては、当該保健所設置市等)は、条例で、区域を定めて、人を宿泊させる日数から除かれる期間として七日以上の期間を定めることができる。

出所:日本橋くるみ行政書士事務所作成

この改正案をすすめる理由(5つのメリット)

筆者がこの改正案をすすめる理由は、次の5つのメリットが存在するためです。

メリット1:自治体の裁量により規制緩和を決定できる

2018年の民泊法の導入当時は、全国各地の自治体から大きな反発が起きました。

民泊法は、それまで違法営業が蔓延していた民泊を全国的に解禁するドラスティックな規制緩和であり、かつ、自治体に与えられた民泊を制限する裁量は限定的であったため、民泊に反対する住民が多い自治体からは特に大きな反発が起こりました。

この点、筆者が提案する改正案は、長期滞在を年180日の日数にカウントする/しないの裁量を自治体に委ねているため、2018年当時と同レベルの反発は起きないと予想されます。

規制緩和をしたい自治体にのみ、条例を作る自由を与える。

民泊法には、地方自治の精神を重んじる、柔軟な法律になってもらいたいと思います。

メリット2:特区民泊と同じ「通年民泊」を全国展開できる

筆者が提案する改正案により、「一定の期間」以上の期間における宿泊日数を180日にカウントしないことで、特区民泊と同等の制度を、日本全国で展開できるようになります。

これまで、特区民泊を導入してみたいけれども、国家戦略特区の指定地域ではないという理由で導入を断念してきた自治体にとっては、条例を作ることで、特区民泊と同様に、年180日を超える民泊を行うことが可能となります。

国家戦略特別区域法の制約なしに通年で民泊を営めるにようになることは、観光や宿泊による産業振興を目指す地域の自治体にとっては大きな追い風となるでしょう。

メリット3:建築基準法等の諸法令との整合を保つことができる

住宅において「一定の期間」以上の期間における滞在を認めることと、建築基準法や消防法といった関連諸法令との整合性については、特区民泊の制定時に理論的な整理が図られています。

筆者が提案する改正案では、「一定の期間」以上の期間における滞在が無制限に認められることとなりますが、その場合における諸法令との整合性は、特区民泊における整理を援用することで解消することができます(専門的な内容となるので、詳しくは拙著『民泊のすべて』P41~50を参照)。

なお、特区民泊の制定当初、最低滞在期間は「7日から10日の範囲内」とされていましたが、2016年10月に更なる規制緩和を図る目的から法令改正が行われ「3日から10日の範囲内」とされました。

全国的に2泊3日以上の滞在を「住宅」扱いとして年180日のカウントから除外することは社会通念上受け入れられない可能性が高いと考えられることから、筆者が提案する改正案では「7日」を最低期間としています。

仮に筆者の改正案が実現した後も、特区民泊の実施地域では「3日」を最低期間とする民泊営業が認められる点で、国家戦略特区としての優位性が残ることとなります。

メリット4:長期滞在により、地域に高い経済効果をもたらす

観光によりもたらされる経済効果は、旅行者の滞在期間が長いほど高いとされています。

この事実を踏まえ、観光庁は、訪日外国人旅行者の長期滞在と消費拡大を目指すため、「上質なインバウンド観光サービス創出に向けた観光戦略検討委員会」を設置し、ポストコロナ時代を見据えた今後の観光戦略の策定を進めています。

この点、筆者が提案する改正案は、民泊法に基づく施設における6泊7日以上の長期滞在を促し、地域に高い経済効果をもたらすことが期待されます。

メリット5:宿泊サブスク等の新ビジネスを促進できる

筆者が提案する改正案により、月額料金を払うことで全国の空き家や別荘などの民家に1週間単位で宿泊できる「宿泊サブスク」といった新しいビジネスや、旧来から存在する「ウィークリーマンション」が法の規制下に置かれ、適切な成長が促されることが期待されます。

宿泊サブスクは、旅館業法に基づく許可を受けない住宅に利用者を短期(1ヶ月未満)で滞在させることの違法性が、一部の保健所から指摘されています。

(参照:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68848330U1A200C2EA1000/

また、厚生労働省の通知により、利用者に1週間単位で部屋を提供するウィークリーマンションは旅館業法の適用を受ける旨が示されていますが、現実には、同法の許可を受けていない“違法”ウィークリーマンションが少なからず存在するといわれています。

(参照:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta0406&dataType=1&pageNo=1

この点、筆者が提案する改正案により、たとえば、条例で「7日」が定められた区域においては、民泊法に基づく届出を行うことで、年180日の制限を受けずに宿泊サブスクやウィークリーマンションを営むことができるようになります。

また、これらの事業が民泊法の規制下に置かれることで、施設の衛生管理、滞在者名簿の備付、必要な消防用設備の設置など「人を宿泊させる営業」に要求される最低限の基準を満たす、適法な事業が遂行されていくことが期待されます。

そして、宿泊サブスク等の新ビジネスが健全に成長すれば、サービスの利用をきっかけとして、都市と地方に複数の拠点を置いてリモートワークをしながら生活を送る「二地域居住」「多拠点居住」といった新たな生活スタイルや、長期滞在先でリラックスしながら仕事を行う「ワーケーション」といった新たな仕事スタイルの普及にもつながっていくでしょう。

以上、ご参考になりましたでしょうか?

新型コロナウイルス感染症の一刻も早い収束と、ポストコロナ時代の更なる観光産業の発展を祈りながら、2021年の民泊法の改正案の提案をもって本連載を終了させていただきたいと思います。足掛け5年にわたりご愛読いただいた読者の皆様と、連載を支えてくださったリビンマガジンBiz編集部の皆様に深く御礼申し上げます。

以上

※「石井くるみの民泊最前線」は今回が最終回です。(リビンマガジンBiz編集部)
 
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