旅館業からの賃貸への転用-想定される3つの形態-

カピバラ好き行政書士 石井くるみさんが民泊を始めとした宿泊関連ビジネスの最新情報を紹介します。新型肺炎(新コロナウィルス)は宿泊ビジネスを破壊しています。宿泊事業者は生き残るためにあらゆる可能性を取り入れるべきでしょう。以前公開した記事に続いて、建物の契約形態の変更まで含めて、可能性を探ります。(リビンマガジンBiz編集部)

画像=PIXABAY
新型コロナウイルスの感染拡大により事業継続が困難になるホテル・民泊などの宿泊事業者から、「旅館業に基づく許可を受けた施設を、賃貸で運用できないか?」という相談が急増しています。前回に続き、旅館業法に基づく許可を受けた施設を賃貸で運用する場合の手続と運用方法(契約形態)を考察します。
施設を賃貸で運用することを検討する旅館業の営業者が検討すべき契約形態として、①普通借家契約②定期借家契約③宿泊サービス契約の3つが挙げられます。これらの契約形態の特徴の比較表は下記図表に示すとおりです。

▶契約種類
①普通借家契約
②定期借家契約 ③宿泊サービス契約
▼項目
利用者の契約更新権
あり
なし
施設の衛生管理責任
利用者(賃借人)
施設管理者
提出書類
廃止届
停止届
不要(旅館業継続)
出所:日本橋くるみ行政書士事務所作成
①普通借家契約
普通借家契約は賃貸運用を行う場合に最も一般的に採用される契約形態であり、通常は当初契約期間を2年と定め、その後は原則として借主の意思によって契約が更新されます。借主が引き続き住むことを希望している場合には、貸主からの解約や、契約期間終了時の更新の拒絶は、貸主に正当な事由(貸主がどうしてもその施設に住まなければならない等の強い理由)がない限りできません。したがって、旅館業法に基づく許可を受けた施設を普通借家契約に基づき賃貸運用すると、いつ施設から借主が退去して旅館業の営業を再開できるか分からないため、一般的に「廃止届」を提出します。

②定期借家契約
定期借家契約は、普通借家契約とは異なり契約の更新がない契約で、契約期間が終了した時点で確定的に契約が終了し、貸主は確実に施設の明け渡しを受けることができます。旅館業法に基づく許可を受けた施設を定期借家契約に基づき賃貸運用し、その運用期間終了後は旅館業の営業を再開する計画であれば「停止届」を提出することになります。ただし、旅館業を停止している間、旅館業ではない別の用途(住宅など)に供するのであれば、いったん旅館業を廃止するように、と行政が解釈する可能性があります。事前に個別具体的に許可を受けている行政庁に相談しましょう。

③宿泊サービス契約
利用者と長期の宿泊サービス契約を結ぶ方法もあります。この場合、施設を管理する旅館業の営業者は、利用者に対して一定の衛生管理責任(例:換気、採光、清潔等の措置を講じる責任)を負います。そのため、利用者と普通借家契約や定期借家契約を結んだ場合とは異なり、旅館業の営業者は、法令及び宿泊サービス契約に基づき施設の清掃等の衛生管理サービスを提供することが義務付けられます。旅館業の営業者は、引き続き旅館業の営業を行うため「停止届」や「廃止届」を提出する必要はありません。

少しでも多くの旅館業の施設が、最適な選択を行い、この難局を乗り越えられることをお祈りします。

 
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