石井くるみの民泊最前線
持続可能な観光立国に向けて、オーバーツーリズムを考える②~海外観光都市の事例~
カピバラ好き行政書士 石井くるみさんが民泊を始めとした宿泊関連ビジネスの最新情報を紹介します。
観光客が増えたことで市民生活に支障がおこるオーバーツーリズム。日本でも進行中と言われるオーバーツーリズムについて解説します。(リビンマガジンBiz編集部)
急増する訪日外国人旅行者を背景に、社会的な関心を集めているのが、旅行者と地域住民との間に生じる摩擦、いわゆる「オーバーツーリズム」の問題。観光庁では、2018 年6月に「持続可能な観光推進本部」を新たに設置し、全国の主要観光地における実態の把握や、今後の観光政策の方向性について取りまとめを行いました。
「住んでよし、訪れてよしの国づくり」の標語を掲げる日本の今後の観光政策を考えるうえで参考となるのが、海外の主要観光都市の事例です。
スペイン・バルセロナの事例
スペインのバルセロナ市では、1992 年の夏季に開催されたバルセロナ・オリンピックをきっかけに外国人旅行者が増加し始め、市は「観光」を重要な政策の1つに位置づけました。その後、1994年にバルセロナ市観光局を設立し、観光プロモーションの拡大を図ると、旅行者はさらに増大しました。
住民との軋轢が顕在化してきたのは、延べ宿泊観光客数が、1,400万人を超えた2007年頃からです。この時、バルセロナ・オリンピックが開催された1992年の3.5倍にまで観光客数が増えていました。
バルセロナ観光に外せない施設のサグラダ・ファミリア周辺でも、地域住民から観光による悪影響についての苦情が徐々に広がっていきます。もともとバルセロナ市はサグラダ・ファミリアや旧市街等の観光地と住宅地が近接していたため、住民との観光客との軋轢も生じやすかったと考えられます。かくいう私も、2010年にバルセロナを訪れたことがあります。街には日本人観光客が多く、自分もその一人ではありましたが、びっくりした記憶があります。
そして、2014年に市内を水着姿で買物をする旅行者について報道されたことがきっかけに、観光の悪影響についての報道が一気に過熱してしまいました。観光客増加に対する市民の反対デモ等が行われ、2015年には観光弊害対策を重要視し、「ホテル建設凍結」を公約に掲げた市長が当選しました。なお、2017年に公表された世論調査では、バルセロナ市民が考える社会問題として「観光」が「失業率」を上回って1位となっています。
こうした事態を受けて、2017 年には旅客流動の分析や、分散化策の検討等を実施する「バルセロナ観光観測所」が設立され、現在はサグラダ・ファミリアにおける事前予約制の導入、グエル公園における時間ごとの人数制限等の対策を講じられています。