隔週月曜配信「石井くるみの 民泊最前線」


カピバラ好き行政書士 石井くるみさんに民泊の最新情報を紹介してもらいます。


旅館業法の規制緩和によって、合法的な民泊が増えることが期待されています。しかし、自治体の条例によって厳しく規制されるため、民泊は拡大普及しないという懸念もあります。果たしてどうなのでしょうか。2回に分けて解説していただきます。(リビンマガジンBiz編集部)


(画像=写真AC)

昨年12月15日に改正旅館業法、今年1月31日に改正旅館業法施行令が公布されました。昭和23年に成立以来の大幅な改正による規制緩和が期待されています。次のステップとして、各自治体の条例の制定があります。

法令は規制緩和されましたが、今後、自治体の条例でどこまで厳しくされるのでしょうか?

という質問を受けることが増えてきました。

この質問に対して「現行の旅館業法並みの制限を課すことを示唆している自治体もあります」と、行政担当者へのヒアリング結果をもとにお伝えしています。しかし、果たして本当に条例により、現行の旅館業法並みの規制ができるのでしょうか。

今回と次回の2回にわたり、実務上特に重要となる改正旅館業法に関する下記の3論点について、考察していきます。

(1) 条例で旅館・ホテル営業に最低客室数を規定できるか

(2) 条例で旅館・ホテル営業への玄関帳場の設置を義務付けられるか

(3) 条例で旅館業の施設への従業者の常駐を義務付けられるか

■法令と条例の関係


3論点を考察する前に、法令と条例の関係について解説します。

自治体は自由に条例を制定できるわけではありません。憲法94条及び地方自治法14条1項の規定により、法律の範囲内で、法令に違反しない限りにおいて条例を制定できるとされています。

『憲法第94条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。』

『地方自治法第14条第1項 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。』

ここでいう「法令」とは、憲法及びこれに適合する法令(法律及びその委任を受けた命令)

を指すと解されています。

法律=旅館業法

命令=旅館業法施行令(政令)、旅館業法施行規則(省令)

これら憲法、法令(法律、政令、省令)と条例の関係は、次のようなピラミッド構造になります。

(図表)憲法、法令、条例の関係図

出所:千葉県 総務部 政策法務課 条例づくりに関するQ&A より抜粋

■条例と法令の関係に関する最高裁判例

では、どのような条例が法令に違反するのでしょうか。最も有名な判例は、徳島市公安条例事件判決(最高裁大法廷判決昭和50年9月10日)です。

この事件は、反戦グループのデモ行進に参加した被告が、道路交通法(法令)違反と

徳島市公安条例(条例)違反で起訴されたもので両者の関係を判断したものです。

この裁判で示された判断の枠組みは、法律と条例で規定する事項が重複した場合には、

「法律と条例の双方の趣旨・目的・内容及び効果を比較して、両者の間に生ずる矛盾抵触

関係の有無をもって条例が法律の範囲内かどうか」を判断するというものです。

その具体的な判断の枠組みを図式化すると次のようになります。

(図表)条例の法令適合性判断のフローチャート

 

(画像=『政策法務研修テキスト <第2版>(北村喜宣、礒崎初仁、山口道昭 編著)』をもとにリビンマガジンBiz編集部にて作成)

■論点(1) 条例で旅館・ホテル営業の最低客室数を規定できるか

まず条例による最低客室要件の規制が可能かを、上記のフローチャートに基づき考えていきます。

●対象:法令と条例で、規制対象が重複するか?

2018年1月31日の旅館業法施行令の改正により、これまでの「ホテル営業は10室」「旅館業法は5室」と定められていた最低客室数の要件が撤廃されました。

この結果、新・旅館業法(法令)では、旅館・ホテル営業に最低客室数の規制はなくなりました。

法令の制限がない状況で、自治体が条例により、例えば最低客室数を5室と定めた場合には、条例により新たに客室数を規制対象に追加することになります

つまり、法令で規制対象のないものが、条例では規制対象となります。前述のフローチャートの最初の分岐「対象が重複するか」はNOとなり、次の「放置する趣旨か」の判断に進みます。

●目的/趣旨:旅館業法は積極的に最低客室数の規定を置いていない(放置している)のか?

ここでのポイントは、旅館業法施行令が最低客室数の定めを置かない目的です。客室数の制限を設けないことを、法令が積極的に放置していると解されるか否かとなります。

この判断にあたり考慮すべき要素は…

①公衆衛生の見地及び善良の風俗の保持という、旅館業法の2つの目的

②職業選択の自由、職業活動の自由を保障した憲法22条の規定

③旧旅館業法において最低客室要件が定められていた趣旨である「安定した営業として成り立ち得る施設規模の確保」が、ICT(情報通信技術)等の発達した現代でも存在するか否か

④2017年12月の旅館業法改正により最低客室要件が撤廃された観光立国推進等の趣旨

などが考えられます。

逆に言うと、最低客室数の制限を置こうとする自治体は、これらの要素に照らして、なぜ最低客室数の規制が必要なのかを説明できなければなりません

単に「旅館業の許可を与えることで、合法的な民泊を増やしたくない」といった説明では不十分と考えられます

もし、旅館業法は最低客室数の要件を積極的に放置するため、当該要件を撤廃したと解される場合には、条例により最低客室数の要件を定めることはできません(フローチャート2つ目の分岐のYESに該当)。

また、旅館業法よりも強度の規制を行う条例は、必要性・相当性を欠き違法と判断された、次の判例も参考にすべきでしょう。

飯盛町の旅館建築の規制に関する条例と旅館業法との関係(昭和58年3月7日福岡高裁判決)。

参考リンク:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=17007

条例の適法性は自治体の判断事項であるため、本稿での考察はここまでに留めたいと思います。

 
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