新卒で住友不動産販売に入社し、2年目で900人の営業社員の中で成績1位を獲得。「10年に1人の逸材」とまで言われながらも、夢を追いかけて退職を決意——。現在、吉本興業所属のピン芸人で「不動産芸人」という独自のポジションを築いているせらっきょ氏の人生は、まさに異色のキャリアそのものだ。

これまでの経歴、そしてこれからの展望について話を聞いた。

せらっきょ

不動産芸人・せらっきょ氏 撮影=取材班

就職活動での偶然の出会い

不動産業界へ飛び込んだきっかけは全くの偶然だった。

「正直言うと、就活を全然頑張ってなかったんです」

大学3年生の終盤になってようやく就職活動を始めたせらっきょ氏は、業界研究もままならない状態だった。

「知ってる名前の会社だけ面接を受けてました。だから受けたところって、ヤマダ電機とかヨドバシカメラみたいな量販店。あとは三井住友銀行とか。業界も分野も全くばらばらでした」

電通を電気会社、博報堂を薬局だと思っていたという。そんな中で住友不動産販売が目に留まったのは、初任給の高さだった。

「初任給が234,100円って書いてたんですよ。他のところは軒並み205,000円とかやったんで、その3万が僕の中でおっきく感じて」

父親が地元・大阪で不動産業を営んでいたこともあり、不動産業界は身近な存在だった。入社の決め手となったのは、実は芸人への夢を諦めきれなかったからでもある。

「芸人になりたかったっていうのはどっかにずっとあって。1年、2年働いて辞めるときに、NSC(吉本の養成所)の入学金ぐらいは貯まってたらいいなっていうので、初任給が高いところがよかったというのが一番の決め手ですね」

不動産営業としての覚醒

2013年4月、住友不動産販売に入社し、三田営業センターに配属されたせらっきょ氏だったが、最初の数カ月は苦戦の連続だった。

当時は大手不動産会社でもチラシによるポスティングが主な営業活動。せらっきょ氏も多分に漏れずポスティングを行うも、反響が得られない日々が続いた。それもエンドユーザーに向けてではなく、いわゆる「モニター募集」。つまりチラシ配りのスタッフを集めるためのポスティングだった。

「僕がチラシを撒いていたエリアって港区の三田とか白金とかのエリアなんで、12円、5円とかのチラシ配りの仕事を受けたい、と思う人がそもそも住んでるわけがないんです」

転機が訪れたのは7月、営業所のスタッフの配置転換や退職などの人手不足から電話営業を任されることになった。

「僕からしたら、水を得た魚のよう、というかほんまに魚やったんですよ。もう嬉しくて片っ端から電話して」

もともと話好きだったというせらっきょ氏にとって、電話での過去顧客の掘り起こしは、天職とも言える業務だった。「反響が来ないチラシを撒きに行く方が、しんどかったんです。クーラー効いた部屋で、こんな電話させてもらえんねや!と思って」

電話でのアポイントも生まれ、8月には初契約を獲得。その後も立て続けに契約を決め、一気に営業としての才能を開花させていく。

そして、本格的に成績が伸び始めたのは12月からだった。

「エンドへのチラシの内容を変えたんですよね。それに加えて夜必死に自分でも投函するようになったんですよ。9時に会社が終わって、そこから11時までチラシ撒いてっていう毎日を送るようになりました」

他の営業センターで反響が来ているチラシのデザインを参考にするなど、工夫を凝らした。「同期の事務員とかに、『他の営業センターで反響来てるチラシ、ほんまごめんやけど、1枚だけもらってきてくれへん?』とお願いして。そのデザイン丸パクリして笑。そしたら12月ぐらいから反響来るようになって」

そういった努力や営業活動が実を結び、1年目で新卒150人中2位、2年目には首都圏900人の営業スタッフの中で1位という快挙を成し遂げた。

せらっきょ氏

撮影=取材班

芸人への道のり

大学時代は落語研究会に所属し、芸人への憧れを抱いていたせらっきょ氏。住友不動産販売での輝かしい評価にも関わらず、2年で退職を決意した。落研時代にコンビを組んでいた後輩からの誘いが決め手になり、吉本興業のお笑い養成所NSCに入学する。

6月のボーナスまでおれよって。めちゃくちゃ言われたんですけど」と周囲の引き止めもあったが、「ボーナスもらうためだけに残るのもなっていうのもありました」と当時の心境を語る。

今でも、住友不動産販売に対しては「会社への不満は本当にゼロです。本当によくしてもらいました」と、感謝の気持ちを隠さない。

そして、お笑いの世界に飛び込んだせらっきょ氏。最初に組んだコンビ「セラ山本」は、相方が講談師の道に進むことになり解散。その後、新しい相方と「ぺんとはうす」を結成し、ツッコミを担当する。2023年には、関西若手お笑いの登竜門と言える今宮子供えびすマンザイ新人コンクールで福笑い大賞にも輝いたが、同年にコンビを解散。今はピン芸人だ。

現在、せらっきょ氏は週4日間を芸人として活動し、残りの3日は都内の不動産会社で業務委託として勤務している。

「やるんやったら、芸人が2番目になったら意味ないなと思っています。だから、不動産会社では週3日まで。あとの4日はがっつり芸人やってます」

YouTubeでの動画配信も積極的に行っており、不動産業界の内情を、ユーモアを交えて紹介する「不動産芸人ちゃんねる」は業界内外で話題だ。

せらっきょ氏のYouTube動画

せらっきょ氏の「不動産芸人ちゃんねる

「圧倒的にYouTube見ましたと言ってくれる人が多い。劇場で見ましたとかは本当に少ないです笑」

毎週火曜日の夜に生配信している動画では、視聴者からのマニアックな不動産の質問に面白おかしく答える一方で、不動産のプロとしての知見での解説も行う。ショート動画では不動産プロも思わずあるあると共感するような、不動産業の日常がショートコント風に紹介されている。

せらっきょ氏、今後の展望

せらっきょ氏

撮影=取材班

芸人と不動産営業、このふたつに共通点はあるのだろうか。

「精神論の部分が大きいかもしれないですね。不動産の仲介営業では、月の予算というものがあって、月末なんかはなんとしても数字を作ろうとします。それでも予算に届かない!ってときに、まだ頑張れるかどうか。お笑いでも、ネタ作りって、めっちゃしんどいんです。そういったときに、まだやれるかと自問自答する。ここで頑張れるのは不動産営業の経験が活きてるのかもしれません」

一方で、営業で培った話術をお笑いに活かすことの難しさも語る。

「不動産営業の喋り方は、分かりやすく話そうとしすぎて面白みがなくなってしまう。営業では丁寧に話すことを心がけますが、お笑いではわかりやすさなんてどうでもよくて、面白く話せるかが重要ですから」

せらっきょ氏が目指すのは、「不動産芸人」というジャンルの確立だ。

「アメトーークでも不動産芸人ってまだやったことないですよね。家電芸人って言ったら、『ああ、家電芸人』となりますが、『不動産芸人』もそれぐらいに認知されるまで頑張りたいです」

「不動産業界にはいつでも戻れると思っています。戻れるが故に、お笑いで通用するかをはっきりせなあかんなっていうのは、ずっと念頭にある」という強い覚悟を持って芸人活動に取り組むせらっきょ氏。

10年に1人と評価された営業の才能を捨ててまで追いかけた夢。トップ営業として培った経験と芸人としての感性を併せ持った同氏の挑戦は、多くの人々に新鮮な驚きと笑いを提供している。

【イベント告知】せらっきょ×リビンマガジンBiz編集長トークセッション

2025年829日(金)、RX Japan(東京都千代田区)が主催するJAPAN BUILD OSAKAにて、せらっきょ氏と当リビンマガジンBiz編集長・服部によるトークセッションを開催します。

  • 日時:2025829日(金)12301315
  • 開催場所:インテックス大阪
  • 参加無料

テーマは「元トップ営業・不動産芸人せらっきょと考える。不動産営業の極意

元住友不動産販売のトップセールスから芸人に転身したせらっきょ氏。営業現場で培った顧客獲得術、クロージング技術など実践的なノウハウを披露。リアルタイムでの質問も交えた、笑いと学びが詰まった45分。

不動産業界関係者はもちろん、お笑いファンの方々にも楽しんでいただける内容となっております。せらっきょ氏の軽快なトークと、服部編集長との掛け合いにご期待ください。

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