不動産仲介事業に参入する工務店や建築会社向けのボランタリーチェーン(VC)「物件王」を運営する物件王(名古屋市)。従来の不動産フランチャイズチェーンとは異なり、加盟企業が自社ブランドを維持したまま不動産仲介事業を展開できる独自のビジネスモデルで、全国250社以上の加盟店を抱える。同社・取締役の前島勇也氏に、サービスの特徴や今後の展望について話を聞いた。

物件王・取締役・ビジネスサイドマネージャーの前島勇也氏

物件王・前島勇也取締役 画像提供=物件王

──物件王の事業内容について教えてください。

当社は建築会社やリフォーム会社、工務店に向けて、不動産仲介の新規事業立ち上げ支援を行うVC(ボランタリーチェーン)「物件王」を運営しています。

建築と不動産のシナジー効果は広く認識されているものの、具体的な事業展開の方法がわからない、あるいは宅建業の免許は持っているが積極的に活用できていないという企業が数多く存在します。そこで当社では、新規事業の立ち上げから実務面まで、包括的なサポートを提供しています。

──加盟されている企業の特徴はありますか。

現在、全国で約250社の加盟店があり、2名程度でやられている小規模な企業から売上1,000億円規模の企業まで、非常に幅広い層にご参画いただいています。

特徴的なのは、すでに地域で確固たる地位を築いている工務店や建築会社が多いことです。これらの企業は、自社ブランドを大切にしながら新規事業として不動産仲介に参入したいというニーズを持たれています。

──具体的にどのような支援を行っているのでしょうか。

当社のアプローチの特徴は、単なるツールや支援サービスの提供ではなく、ビジネスモデル全体の提案から始めることです。建築会社が不動産仲介の窓口を設けることで、より川上の顧客と接点を持ち、自社の建築受注につなげていくという事業モデルを提案しています。

ビジネスモデルに共感いただいた企業に対して、実務支援、ホームページ制作による集客支援、物件管理CRMなどのシステム提供まで、包括的なサポートを行っています。これは私たちの強みのひとつで、システムと実務の両面から支援できる体制を整えています。

──実務とシステムの両面からサポートや支援を行っているのですね。

実務面では特に、不動産仲介業務の立ち上げから運営までをきめ細かくサポートしています。例えば、宅建業免許の取得支援から、実際の仲介業務の進め方、必要書類の作成方法、トラブル対応まで、実践的なノウハウを提供しています。

画像提供=物件王

当社は兵庫県と神奈川県に直営店舗を持っており、そこで得られた実践的なノウハウを加盟店支援に活かしています。現場で実証された効果的な営業手法や業務フローを、加盟店それぞれの状況に合わせて提供できることが強みとなっています。

──建築業や工務店が参画するからこそのポイントはあるのでしょうか。

不動産仲介の現場では一般的に、売主の開拓に注力する傾向にあります。一方、「物件王」では買主へのアプローチを重視しています。土地購入者は必ず建築を必要とし、中古物件購入者もリフォームやリノベーションのニーズを持っています。建築会社による不動産事業では、仲介手数料よりも、その先の建築受注を目的としているため、このアプローチが効果的です。

加えて、大手不動産会社は長年にわたり売主への営業活動にマーケティング費用をかけて投資をしており、新規参入企業がその領域で競争力を持つのは困難です。一方、買主向けの不動産仲介に特化している企業は比較的少なく、物件情報のシェアを確保できれば、新規参入でも十分に競争力を持つことができます。

当社では、各地域での効果的な物件情報収集の手法も体系化しています。地域の不動産会社とのネットワーク構築から、物件情報の効率的な管理方法まで、実践的なノウハウを提供しています。また、独自のCRMシステムにより、収集した情報を効果的に活用できる仕組みを整えています。

──加盟店からはどのような成果や効果の声がありますか。

特に集客面で顕著な成果を上げていただいています。新築住宅会社の場合、一般的な集客における反響単価は5万円から7万円、リフォーム会社でも2万円から3万円程度かかるのが通常です。これに対し、当社の加盟店では5,000円から1万円程度に抑えられています。

さらに重要なのは集客の質です。不動産の窓口を通じて来店されるエンドユーザーは、住宅購入を検討し始めた初期段階の方が中心です。これは建築会社にとって非常に重要で、土地選びや中古住宅選びの段階からコンサルティングを行うことで、自然な形で建築受注につながっていきます。

中規模建築会社では、従来の土地仕入れ型の販売から、仲介経由の受注にシフトすることで、在庫リスクを低減しながら売上を伸ばすことに成功しています。地域や企業規模によって異なる成果が出ていますが、いずれも建築受注の増加という目的を達成しています。

──他社フランチャイズなどとの差別化ポイントを教えてください。

当社の大きな特徴は、FC(フランチャイズ)ではなくVC(ボランタリーチェーン)制を採用している点です。建築会社は長年かけて築き上げた自社ブランドや信頼関係を大切にしています。当社のシステムでは、既存のブランドを維持したまま新規事業を展開できる点が、多くの加盟店から高く評価されています。

また、加盟店同士の関係性が非常に良好な点もVCの強みです。定期的な情報交換の場を設けており、特にオーナー間での戦略共有は、加盟店にとって大きな価値となっています。全国各地の成功事例や課題解決のノウハウが共有され、それが新たな加盟店の成長にもつながっています。

また、年に一度の全国大会やロープレ大会なども開催しており、加盟店同士の交流を深める機会を提供しています。

──「物件王」事業をスタートするきっかけについて教えてください。

「物件王」は物件管理システムの開発・提供からスタートしました。元は岐阜県のIT企業で開発されたシステムを、知人の建築会社向けに提供していたところから始まっています。その後、2018年に現代表の藤井が事業を継承し、不動産・建築の実務経験とシステムを統合した総合的なサポート体制を構築しました。

私が参画した2018年ごろからは本格的な全国展開を進め、現在の規模まで成長してきました。この間、加盟店の声を積極的に取り入れ、システムの改善や支援内容の拡充を継続的に行ってきました。特に実務面でのサポート体制を強化し、経験の少ない企業でもスムーズに事業を展開できる体制を整えてきました。

──長く不動産業界に関わっているなかで、業界に感じる課題はありますか。

不動産業界における最大の課題のひとつは、不動産事業者と顧客間の情報格差です。両手取引による利益追求を優先し、顧客の選択肢を制限している事業者が依然として多いのが現状です。これは業界全体の健全な発展を妨げる要因となっています。

特に近年は、インターネットの普及により情報収集が容易になったにもかかわらず、実際の取引では依然として情報の偏りが存在します。

「物件王」のモデルは建築受注を主目的とするため、顧客に対してより多くの選択肢を提供することが可能です。つまり、両手取引を目指す仲介会社よりも、公平な立場で、より健全な取引を目指すことができる。そこは当社の強みにもなっています。

──今後の展望についてお聞かせください。

当社ではエリア制度はありませんが、5万世帯から10万世帯に1店舗が望ましい商圏と考えており、全国では約500店舗が適正規模だと考えています。現在の成長ペースは年間50社程度で、5年以内での目標達成を見込んでいます。

しかし、単なる数の拡大ではなく、各加盟店の成果を最大化することにも注力しています。そのため、実務支援チームの強化や、システムの継続的な改善にも力を入れています。

私たちは、不動産取引の在り方を変革することで、顧客により良い選択肢を提供できる市場を作りたいと考えています。建築会社が不動産仲介に参入することで、住宅建築やリフォームまでを見据えた、より長期的な視点でサービスを提供していきたいですね。

 
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