災害と空き家 住宅の需給バランス

画像=写真AC

昨年7月に熱海市で発生した大規模な土石流災害から、今月で1年が経った。斜面が崩落し、土砂とともに家屋がなぎ倒されていく映像は衝撃的で、土石流の怖さを多くの人の目に焼き付けた。

災害関連死1名を含む27名の命が失われました。全・半壊した家屋は64棟に及ぶと発表されていて、今も235名の方々が避難生活を余儀なくされています。1年が経ちましたが、雨が降れば港に土砂が流出し海が茶色に染まるそうで、生活再建の大変さを地元メディアが報じている。

地元の不動産会社には災害発生直後から家を失った方や次なる被害を懸念する方々が、賃貸住宅を求めて、次々と来店したと聞く。

熱海市は温暖な気候と温泉などの資源が豊かで、古くから保養地として繁栄してきた。東海道新幹線などの首都圏からのアクセスが良好で、昭和30年代~50年代に盛んに不動産開発されたため、当時のリゾートマンションが今では空き家として点在している。そのため、空き家率が52.7%(2018年3月時点、平成30年住宅・土地統計調査結果=総務省統計局)、約1万8000戸もあるとみられている。

しかし、これだけ空き家があるのに、条件に合う部屋が見つからず、苦労した被災者も少なくなかったようだ。

なぜ部屋がみつからないのか。東日本大震災の被災地でも同様の事態になったそうで、住宅の需給バランスを取るのがいかに難しいかが分かる。

復興庁の統計では、東日本大震災の発生から1年間で岩手、宮城、福島の3県で1263名が震災関連死と認定されたそうだ。そのうち、638名が「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」で、言うまでも無く、体育館や公民館などの避難所では、簡易な間仕切り程度の環境で、大勢の人が生活するのは、計り知れないストレスになる。プライバシーの守れる賃貸住宅の方が、避難者の健康にも良いのは論を俟たない。

空き家問題は、不動産業界だけならず、日本社会の最重要課題だ。同時に、災害の多い日本列島においては、空き家は貴重な災害インフラにもなり得ることは頭の片隅に入れておきたい。

維持管理にコストがかかる空き家を減らしながらも、災害時の拠り所としても活用していく。アクロバティックな要求ではあるが、知恵を絞りたい。

(文・小野悠史)

 
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