私の住む地域では「だんじり祭り」が盛んに行われます。地域の神社で行われる夏祭り、秋祭りなどに合わせて、だんじり(地車)を曳行し、地車囃子を演奏するという習わしが、地元住民の皆さんの楽しみや、近年は観光イベントという要素も含めながら続けられているものです。

売主の説明義務

だんじり祭りの期間は交通規制が行われるので、地元住民は食料品や日用品の買い出しを事前に行っておく工夫が必要です。宅配便や生協などの配送も通常通りというわけにはいきません。また夏が過ぎた頃から、青年団のメンバーが楽器の練習、走り込みを始めますし、道には提灯がたくさん吊るされ、灯りがともるようになります。
このような街の表情の変化は、その地域に住んでいるからこそ分かるものです。

皆さんが不動産を売却したいと考えるときには、購入希望者に対しその不動産について説明する義務があります。民法における信義誠実の原則に基づく義務であり、買主の信頼を裏切らず誠実に行動しなければならないという義務が、売主にはあるのです。

たとえ、宅建業者が売買を仲介する場合でも、売主の説明義務がなくなるとは必ずしも言えません。宅建業者が網羅しきれず、売主しか知り得ないような情報というのは存在します。

先のだんじり祭りの例のように「住んでいるからこそ分かる街の表情の変化」もあります。また過去に水漏れの修理を行ったことがある、夜中に暴走族などの騒音が聞こえることがある、近隣との境界トラブルがある、など売主だからこそわかる情報は、きちんと買主に説明することが、後に買主と売主の間でのトラブルを防ぐことになります。

嫌悪施設とは?

最近「嫌悪施設」という言葉が知られるようになっています。一般の人が嫌悪感や不快感あるいは危険性などを感じるような施設・構造物・建築物を嫌悪施設と呼びます。ゴミ焼却施設、下水処理場、火葬場、墓地、ガスタンク、ガソリンスタンド、風俗店、パチンコ店などがその例です。

しかし、「どこまでが買主に説明しなければならない施設なのか」という、明確な範囲は法律上、定義されていません。また嫌悪施設までどの程度の距離があれば、説明の必要が出てくるのかも曖昧です。そのためか、トラブル回避を重要視する不動産仲介会社は、神社、稲荷、仏閣、病院、古戦場などかなり広い範囲の施設について、買主に説明する場合もあります。

近くに嫌悪施設が存在することで、近隣の地価が下がるという影響があったり、家賃を割引しなければ借り手がつかないという可能性は、あります。

しかし、近隣に嫌悪施設があるから土地が売れないのか、というと必ずしもそうとは限りません。

たとえば、墓地が近くにある場合、住むのは心理的抵抗があるとしても、仏花・墓花・線香などを販売するお店や駐車場を経営するという方法で成功する方もいます。また、神社や仏閣などが近くにある場合、心理的に負担を覚える人や、参拝客・観光客が集まることによる騒音・交通問題・ゴミ問題を心配する人もいるかもしれません。いっぽうで、その神社・仏閣を信仰していて近くに住みたいという人、だんじり祭りや盆踊りなどが好きで、ぜひともその地域に暮らしたいという人もいるでしょう。

皆さんが不動産の売主になったとき、「売れないのではないか」と心配して情報を隠すことよりも、情報を隠さずに提供し、それらをすべて納得して購入してくれる買主を見つけることのほうが大切な時代なのです。

 
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