「東日本大震災で親を亡くした孤児の支援のために使ってほしい」という遺言を残し、岩手県、宮城県、福島県の被災3件に土地を寄付して亡くなった男性の報道がありました。遺言書によって死後に自治体などに遺産を寄付する「遺贈寄付」という方法です。寄付された土地は被災地県外であったため、被災3県が売却し各県の基金に充当するとのことです。

 

不動産を寄付して公共のために役立ててほしい人は少なくありません。

不動産(土地や建物)を寄付した事例について報道があったものからいくつかご紹介します。

不動産の種類

地域

寄付者

寄付相手

寄付の理由と利用方法

土地と建物

群馬県太田市

個人

NPO法人

高齢者や地域の人たちが集うカフェとして利用してもらいたいという寄付者の希望で。

土地と建物

愛知県新城市

個人

学校法人

高校設立の理念を理解した個人が寄付。建物付住宅は売却して資金にあてた。

土地

山口県柳井市

法人

柳井市

工場用地としての基盤整備を市に取り組んでもらうために寄付。

土地

東京都武蔵村山市

個人

武蔵村山市

東京陸軍少年飛行兵学校の資料館の建設用地として寄付。かつてこの兵学校で働いた強い思いから。

土地

東京都昭島市

個人

昭島市

寄付者の母校である小学校の隣接地を寄付。「子供たちのために使ってほしい」という思いから。

土地と建物

山口県長門市

法人

長門市

就業や創業の情報提供施設として、若い人や女性の活躍が広がるような拠点施設として利用してほしいという思いから。

土地

千葉県柏市

市民

柏市

子供たちが元気に遊び回れるような広場にしてほしいという希望。地域の小学生が「遊び場クリエイター」となり、広場の活用アイデアを出し合う活動を行った。

いずれの寄付も、個人や法人がNPO法人や学校法人、あるいは自治体に寄付を行った事例です。

 さて雑誌などで相続税や贈与税に関する特集や記事を目にする機会が増えましたが、

相続税対策や贈与税対策のために、不動産を気軽に寄付することができるのでしょうか。

また寄付する際の特例はあるのでしょうか。

 

「寄付」とは?

 

まず不動産の寄付は受け取る対象が誰になるのかがポイントとなります。寄付する相手が公益的な事業や活動を行う団体や組織のとき、「寄付」となるわけです。詳細は後述しますが、個人間で不動産の寄付はできません。その場合は贈与となります。

 

寄付の定義を決めたところで、本題に入ります。


不動産は気軽に寄付することができるのか

 

事例にも挙げたように、調べると寄付される側になるのは地方自治体が多いです。

しかし自治体が対応できず、寄付したくても寄付できない状況はありえるのです。

それは自治体が不動産の寄付を受け付けたとしても、解決すべき課題が発生するためです。主な課題は3つです。

 

不動産の維持管理コストの問題

②事件・事故・倒壊等の問題が起きた場合は自治体の管理責任

③使用・売却価格のありそうな不動産を寄付してくれる人は少ない

 

不動産の寄付に関する特例は?

 

不動産を寄付することで相続税の対象にならないという特例がいくつかあります。

1つ目は国や地方公共団体あるいは公益事業を行う「特定の団体」に不動産を寄付した場合です。この特例は、いくつかの要件がありますが、「特定の団体」が独立行政法人や社会福祉法人などに限定されている点で、公益性を重視したものです。

 

また個人が法人に不動産を寄付した場合、原則的にはその不動産を時価で譲渡したものと見なされて譲渡所得が課税されることが原則です。しかし国や地方公共団体や公益法人に寄付した場合、譲渡所得は課税されないという特例があります。

 

上記のことから、不動産を寄付することは受け手側によるところが大きいということがわかりました。募金のような感覚で行えるものではないのですね。

 

ただ、中には積極的に不動産の寄付を受け入れている団体もあります。

公益社団法人日本ナショナルトラスト協会は美しい自然景観を守るために、土地の寄付を受け入れています。ある協会員に話を聞くと寄付を受け入れる目安は1ヘクタール以上だそうで、2014年は9件、15年は5件、16年は8件と近年は受け入れる箇所が増えているとのこと。

リンク公益社団法人日本ナショナルトラスト協会

 

「あしながおじさん」のお話から、今回の事例や、ナショナルトラストなどを見ていると、いずれも経済合理性や節税とは異なる「思い」が大切にされていることがわかります。

売れない不動産の費用負担を軽減したいという所有者の思いは理解できますが、上記のとおり寄付するためには受け取る側の承諾も必要です。

不動産の場合、すぐには換金できない点や保有コストがかかることから、受け取る側も慎重になることは確かです。大切なことは寄付者が公益的な事業や法人の理念や目的を充分に理解して、受け取る側にもその思いを理解してもらうことが大切なのだろうと思います。

 

 
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