34年前、閑静な住宅街で、「残忍」という言葉では表せられないほどの凄惨な事件が起きた。
スマイスターMagaZine編集部では、不動産取引が絡んだ殺人事件の痕跡をかつての犯行現場で探した。

不動産取引のもつれからの凶行

私鉄の駅を出ると、バスに10分ほど揺られ、住宅街の停留所で降りた。

あたりは国産ハウスメーカーの二階建てが並ぶ、東京都内の住宅街。どの家も奇妙なほど似通っており、庭にある白い自家用車と荷台付きの自転車まで同じに見えてくる。

まだ6月だというのに、30度を超える真夏日だったため、庭先で水遊びを楽しむ子どもが見える。

なんの変哲もないこの風景には、不動産取引のもつれから起きてしまった、あまりに残忍な歴史がある。


当時の新聞記事 (画像=スマイスターMagaZine編集部撮影)

事件が起きたのは、1983年(昭和58)東京ディズニーランドが開園したこの年の6月27日白昼のことだった。

不動産鑑定士だった犯人X(当時48歳)が、この地に住んでいたA宅に侵入し、主人のAをはじめAの妻と3人の子どもを殺害したのだ。

犯人を追い詰めた利息

Xが競売に出ていた土地と住宅を購入したが、再三の立ち退き要求にA一家が応じなかったことが事の発端になる。

Xはこの土地を転売目的で、1億600万円の金額で落札。すでに第三者とも転売契約を結んでおり、引き渡し期限と落札の為に銀行から借りた資金の利息に追われ、一刻も早く立ち退いてもらう必要があった。利息は月100万円にも及んでいた。あせったXはA一家の自宅近くに引っ越し、連日立ち退き交渉に当たったという。

次第に追い詰められたXは、次第に殺意を募らせていく。銀行への支払いが決まる6月30日の決済日まであと数日…

27日午後3時ごろ、XはA家へ改めて立ち退きを求めに向かった。

Aの妻(当時41歳)に案内され、「最後の説得」を試みたが、断られる。

そして凶行に及んだ

Xは事前に用意していたハンマーでAの妻を殴り殺した。一緒にいた次男(当時1才)の首を包丁で切り殺害。

異変に気づいた三女(当時6才)の首を絞め失神させたうえ、水を張った浴槽に投げ入れ溺死させた。

そして学校から帰宅した次女(当時9才)も首を絞め殺害した。

XはAを(当時46歳)を待ち伏せし、会社から帰ってきたところを、まさかりで斬り付け殺害。のこぎりで夫と妻の首、手足を切断してバラバラにする。切断した遺体の一部はミンチ状にして、トイレに流したという。

事件の結末はこうだ。犯行翌日に、A家に何度も電話するが応答がなかったことを不審に思ったAの妻の母親が近くの警察署に連絡した。A家に駆けつけた同署の警察官が玄関ドアを開けると、中から男が飛び出してきて、取り押さえられる。

家の中を見た警察官は、血まみれの状況に驚愕した。Xはその場で殺人容疑で緊急逮捕される。


マサカリ (画像=pixabay) ※本文とは関係ありません

事件現場で話を聞いた

事件現場となった住宅街で、近所の人に話を聞いてみると事件の記憶は遠くなっている。

40代の女性に話を聞くと、「知らないです。そんな事件あったんですか?」と驚くばかり。

50代の女性は事件があったことは知っていたが、「新しい家がたくさんできて、人も変わっているから覚えている人は少ないと思いますよ」と、本人も事の詳細については知らなかった

次に、70代の女性に話を聞いた。最初は何のことか検討が付かない様子だったが、話しているうちに思い出したようだった。「今は変わったけど、あの辺りに家がありましたよ」と指をさして示してくれた。さらに、「警察とか新聞の人がたくさん来て、大騒ぎでしたよ」と当時を振り返る。

60代男性「警察に話しを聞かれましたね。そんな事件はここらではなかったから、怖かった。でも、犯人はすぐに捕まったから」人の記憶は案外、続かないものなのだろうか。

犯人Xは取り調べで、「骨まで粉々にしてやりたいと思っていたのですっきりした」と異常性が垣間見える供述をしている。その一方で「子どもまで巻き添えにしたのは、すまないと思っている」とも語っており罪悪感もにじませた。

難を逃れた長女

犯行発覚の翌日、新聞紙面には「一家5人を惨殺」の見出しが躍った。

しかし実はAの家族、全員が殺されたわけではない。事件が注目された理由の一つだ。

家族の中で長女だけは事件当日に長野県に2日間の林間学校へ行っており凶行を逃れたのだ。警察から学校に連絡が来たのは犯行が発覚した28日のこと。学校長は「本人の心情を考えると、とても、知らせるわけにはいかない」と声を詰まらせた。

(*長男は乳児の時に病死)

林間学校の最中、自分以外の家族全員が殺される。長女が受けた衝撃は筆舌に尽くしがたい。

この事件を題材にした書籍が多数出版されている。脚本家として知られる野沢尚の手による小説「深紅」は、この事件をモチーフにしていると言われる。

犯人Xは1985年12月に東京高裁で死刑判決が下され、1996年11月に最高裁で上告棄却されて死刑が確定する。2001年12月27日に刑が執行された。

不動産が絡んだ殺人事件

不動産取引は扱う金額が大きい分、トラブルに発展しやすい。

それでも家族も含めた殺人事件に発展したケースは数えるほどしかない。

なぜこのような凶行が起きたのか、痕跡をさがしたが現地では何も見つからなかった。

不意に近くの公園から、子どものはしゃぐ声が聞こえた。

かつてここで、どこにでもある幸せと狂気が同じ風景に共存していたのだ。

 
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