現代日本の都市における「木造建築」は、ほとんどが戸建て住宅です。それ以外の事務所ビルや商業建築などは一般に鉄筋コンクリート造か鉄骨造です。それにはもちろん理由があり、それを説明するためにはまず「木」という材料の特性を知らなくてはなりません。


 人類の最初の建築材料のひとつとなった木材は、世界中で入手することができ、ある程度の強度、耐久性を備え、なんとか人が運ぶことができる重さで、さらに原始的な道具でも加工できる柔らかさもあります。このように、生身の人間が用いるという観点で非常にバランスのとれた材料であったのです。その特性は建築文化が長き歴史を経た現代においても変わらず、建築の「主構造」(前回参照)のひとつという地位は揺るぎません。一方でこの「バランスが良い」という特性は、「際立った性能を示すものでもない」という言い方もできます。すなわち極めて強靭な構造体を作れるわけでも、すごい耐久性があるわけでもなく、水や火に弱いという、現代の都市・建築が要求する高度な建築性能を満たすためにはいささか物足りない材料となってしまいました。そのため都市計画法や建築基準法の規定に従えば、とくに構造基準と耐火基準において戸建て住宅以外の建築には木造はあまり適さないのです。


 ではなぜ戸建て住宅では木造が用いられるのかというと、やはり最大のポイントは工事費でしょう。木材の入手しやすさや加工しやすさは低工事費に直結し、鉄骨造や鉄筋コンクリート造よりも相当安く家が造れます。現代の日本社会においてほとんどの住宅は「専用住宅」(=居住のためだけの住宅。オフィスや店舗などを含むものは「兼用住宅」)であるため、その建設費は建物を使用して回収できるものではなく、また支払うのも個人ですから、あまり高額になっては建てられません。したがって多くの人々が持ち家を所有したいという社会通念とも連動し、木造の戸建て住宅は基準上の聖域としてかなりの程度許容されています。そして現在でも年間90万戸くらい建設されている住宅市場を考えると、木造はまだまだ主要な構法なのです。

 現在、日本の建築業界で木材・木造は大きく注目されています。その理由はいろいろあるのですが、まず技術的には「木質材料」とよばれる木材を加工・集成・処理した高機能材料の進化が挙げられます。それによって大きな柱間の架構や高層化も可能な強度、耐火性能、不燃性能などが得られるようになり、木材・木造を用いることができる用途や規模が拡張されてきているのです。まだ日本で事例は少ないですが、CLT(Cross-Laminated-Timber)のような新しい建材は木造建築の作り方自体を大きく変化させる可能性もあります。

 政府の方針としても、木材の使用はかなり積極的に推進されています。山林保全の観点で国産木材の使用を促したいという目的が主なのですが、規制緩和や助成制度などいろいろな誘導政策が講じられており、今木材が注目される最大の理由ともなっています。

 もちろんエコの観点でも木は重要なアイテムです。樹木は生育過程で二酸化炭素を吸収するので、伐採、加工使用、そして最終的に廃棄処分されるというライフサイクルにおいて温室効果ガス発生がプラスマイナス・ゼロとなる建材とも考えられています。地球環境問題が科学文明に決定的な軌道修正を促す局面において、木は、人類の最も原初的な建材であり、人類の最終的な建材となるものなのかもしれません。


 次回は木造建築の本質についてもう一歩進めて考えてみたいと思います。(了)

 
  • line
  • facebook
  • twitter
  • line
  • facebook
  • twitter

本サイトに掲載されているコンテンツ (記事・広告・デザイン等)に関する著作権は当社に帰属しており、他のホームページ・ブログ等に無断で転載・転用することを禁止します。引用する場合は、リンクを貼る等して当サイトからの引用であることを明らかにしてください。なお、当サイトへのリンクを貼ることは自由です。ご連絡の必要もありません。

このコラムニストのコラム

木造(その2)
2017年03月07日

木造(その2)

木造(その1)
2017年02月14日

木造(その1)

建築の主構造
2017年01月06日

建築の主構造

このコラムニストのコラム一覧へ