遺言には種類がある

遺言とは、自分が築いてきた財産の死後の帰属などをあらかじめ決めておく、遺言者の意思表示です。遺言者が、家族関係や状況を考慮した遺言をしておくことが、遺産争いを予防するため、また後に残された者が困らないようにするために、望ましいことといえます。

遺言には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」というもののほかに、「秘密証書遺言」といったものがあります。遺言は何度でも作り直すことができ、日付の新しいものが「有効」となります(ただし、1通目は不動産について、2通目は預貯金について書かれているなど、複数の遺言で矛盾が生じない場合は、それぞれの遺言が有効となります)。

「自筆証書遺言」は、紙に、自分で遺言の内容を全文手書きし、かつ日付の記入、自署捺印をして作成するものです。ワープロや代筆は認められません。内容は実現可能なものとし、財産の特定や配分などをわかりやすく正確に記します。

例:相続人名(血族相続人以外を指定する場合は、住所等の個人が特定できる情報)、「相続」か「遺贈」かの別、不動産ならば謄本通りの地番まで、銀行預金ならば銀行名・支店名・口座番号・口座名義まで明記する、など

時間の経過により判読できなくなったり、内容を書き換えられてしまったりするのを防ぐため、鉛筆ではなく万年筆やボールペンなどを使いましょう。

自筆証書遺言は、費用をかけずに、いつでも自分の思い通りに書き直すことができます。しかし、訂正には厳格な規定が定められており、規定に反した訂正を行った場合、訂正が「無効」となるリスクや、遺言そのものが「無効」となるリスクがあります。重要な変更をする場合は、部分的な訂正ではなく、新たに作成し直すことをおすすめします。

死後に遺言が発見されなかったり、破棄されてしまったりしないよう、保管場所にも注意しましょう。

被相続人の死後、もし手書きの遺言を発見したら、勝手に開けず、すぐに家庭裁判所に提出して、「検認」を受けなくてはなりません。「検認」とは、その遺言の存在と内容を全相続人に周知し、偽造・変造を防止するためにとられる手続きです。これを怠り、未開封の遺言を開けた場合は、5万円以下の過料(刑罰の「科料」ではなく、行政罰です)を課せられる可能性があります。

最近では「遺言書キット」といったものが書店などで数千円で売られており、誰でも間違いの少ない遺言が作成できるようになりました。しかし、財産内容が複雑な場合などには、法律的に不備のある内容になる危険があり、かつ遺言を発見した者が、破棄や隠匿、改ざんする恐れがないとはいえません。こうした問題を回避することを考えた場合、「公正証書遺言」がおすすめです。

安心要素の多い「公正証書遺言」

「公正証書遺言」とは、遺言者が、証人2名立ち会いのもと、法務大臣に任命された「公証人」の面前で遺言の内容を口授し、それに基づいて、公証人が遺言者の真意を正確に文章にまとめ、作成するものです。

公証人が作るので、まず「無効」ということがありません。また、原本が公証役場で保管されるため、遺言の紛失・偽造・変造等の心配がなく、家庭裁判所の検認も必要ない、確実な遺言といえます。

自筆証書遺言は全文自書で行わなければならないため、病気等で手が不自由になり、字が書けなくなると残すことが困難になります。しかし、公正証書遺言は、公証人が遺言者の意思を確認しながら作成するため、口述のほか、筆談・手話等といった意志伝達が可能な人なら作成できます。病気や入院等により公証役場まで足を運べない場合には、自宅または病院等へ公証人に出張してもらうこともできます。

デメリットは、費用がかかる点。目的財産の価額が増えると、手数料も高くなります。また証人を2名用意しなくてはならず手間がかかる上、証人には遺言の内容が知られてしまうといったところが難点です。

証人の問題については、信用に値する人が見つからない場合は、公証役場から証人の紹介を受けることができます。また、公正証書遺言は、税理士事務所や司法書士事務所等に相続の相談に訪れた際に勧められて作ることが少なくないですから、担当の税理士、司法書士に証人になってもらうケースもよく見られます。

3つ目の「秘密証書遺言」は、遺言の内容を記した書面に自署捺印した上で、これを封じて封緘(ふうかん)し、公証人と証人2名の前でその封書を提出するものです。この遺言の方式は、「この封筒の中には、遺言書が入っている」ということだけを公証人に証明させるものであり、遺言の内容を秘密にすることができます。しかし、証人を用意しなければならず、かつ手数料が必要にも関わらず、「自筆証書遺言」のデメリットを継承しているため、実際にはあまり使われません。

以上から、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」のメリット・デメリットを理解した上で、遺言を作っていただきたいと思います。

一般には、まだ働き盛りで元気なうちは費用もかからず何度でも書き直せる「自筆証書遺言」で、ある程度、お年を召して財産量が確定してきたら、手続きに漏れのない「公正証書遺言」で……といった方法を取られる方が多いようです。

 
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