「どこかいい店ないかな…」と飲食店を探すならスマホでちょちょいと調べるのが、当代の流行りだ。

しかしながら、頼りになるはずのグルメサイトにはカリスマレビュアーに対する過剰接待疑惑、広告料金ごとに点数や検索順位が変動する不正表示などの疑惑が噴出。その評判にも疑問の声が出はじめている。

そんな中で、住宅業界で働く人にとっては、グルメサイトより重宝される情報元があるという。住宅・不動産の専門紙「住宅新報」に掲載されている「今宵も一献」というコラムだ。

7月3日発売号で連載は70回目を迎えた人気コーナーで、執筆者は、かつて同紙の編集長も務めた本多信博氏だ。鋭い筆致と的確な審美眼が読者に頼りにされているらしい。

本多氏にコラム執筆の苦労やお店選び、良い店・悪い店の条件について教えてもらった。

住宅新報 論説主幹 本多信博氏 (撮影=リビンマガジンBiz編集部)

専門紙にも居酒屋情報があっていいんじゃないか…

住宅新報は、住宅・不動産に関わる経済や政策、不動産市場を分析する専門紙である。

どうして専門紙が、居酒屋のコラムを扱うようになったのか「週刊誌には面白いコラムがたくさんあるでしょ?新聞でも小休憩としてこういったコラムがあれば面白いと思ったので、会社と交渉して連載を勝ち取りました」という。

チェーン店は絶対に行かない

この本多氏、チェーン店が好きじゃない。

コラムで取り上げるのも、小体な家族経営の居酒屋が多い。チェーン店は、店員との会話一つとっても、マニュアル対応だからか、記者のアンテナが反応しないのである。

路地裏でひっそりと夫婦でやっているような居酒屋が好きというが、だからこその苦労がある。なかなか良い店が見つからないのだ。

「連載を始めた頃は、ストックしていたお店を書いていて楽だったんですが、20とか30回目を迎えると苦しくなってくる。ついにストックが無くなってきてからは大変でした」

だからといって、適当に選んだ店ではコラムは書かない。「枠を埋めないといけないからって、面白くないお店を紹介することはしない。自分の信念というか、納得できないものを表には出したくない」記者の矜持があるのだ。

新聞記者という職業柄いろんな場所に取材へ行く。取材先で見つけた気になるお店をピックアップするのだ。後日、そのお店をまとめて、取材に出向くという。もちろん、アンテナに反応しないと記事にはしない。

どこのお店も覆面取材

本多氏は基本的に店には1人でいくという。

店主や常連さんと話をしながら、良いところや特徴を聞き出すためだ。そして新聞に載ることは伝えないという。
連載開始当初は、掲載する新聞について、趣旨など事細かく伝えていたが、ある時から説明する時間が億劫になり今では完全覆面で行っている。

複数のお店をはしごすることが多いため、一軒に長居できない。

だが、ホッピーを頼み、つまみを3種類ほど頼み、店主と会話すると、その店の様子が分かってくるようになったという。

載ったお店には、後日新聞を郵送するという。店を出る時、店主に「後日新聞が届きますので」とだけ伝えるという。お店側にとっては、意味がわかならないが今のところ掲載したお店から苦情が来たことは1回も無いらしい。

住宅新報 「今宵も一献」 (撮影=リビンマガジンBiz編集部)

良いお店の3カ条+α

本多氏にとって良いお店の条件とは何だろう。

安くて、美味いは当然のことである。
最も重視するのは「居心地が良い」こと。

うるさいとダメ、静かすぎたら耐えられない。その間のちょうど良い「賑やかな」店を探すのだ。

それに加えて、「何度行っても飽きない」お店であることも重要。記事を書く前に自分が行って好きになれないといけない、常連になりたい店がベストなのだ。もちろん、そんな店は滅多に出会わないので、+αの条件としているという。

取材は全て自腹を切っておこなう。だから、安い店で無いと取材も続けられないが、1回の会計で何万円にもなるような高級店なら、わざわざ教える価値もないだろう。

当然、すべて当たりのお店ではない。

外観は雰囲気があって入ってみたものの、実際は箸に棒にもかからない店も多々あるという。かつては「焼き鳥を注文したら、1本ずつ頼めない。焼く手間がかかるので3本ずつ頼めというんです。揉めて帰りました」客のことを考えない店は論外。

本多氏、相当腹に据えかねたらしく、この店だけは批判記事を書いたという。一応、場所も店名も記さずにしておいたが「それが、面白かったと結構評判良くてね」と苦笑い。「あれはどこの店ですか」と聞かれて弱ったらしい。

自分の信念に従って店探しから、取材を行う。

当然、店側からの接待や、高額の贈り物を貰ったことは無い。このコラムの副題には「居場所をもとめ」とある。
今年で、68歳の本多氏だが、居心地のいい居場所をもとめ、ペンと箸を持ちながら、これからもコラムを書き続ける。

 
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