週刊現代9月9日号に『中国人「タワマン爆売り」で不動産大暴落が始まる』という記事が掲載された。記事では、湾岸エリアのタワーマンション価格の暴落をきっかけに不動産市場全体の崩壊が始まり、日本経済全体に波及しかねないと指摘している。では、本当にタワーマンションの価値大暴落はあるのだろうか。あるとすればその影響はどの程度まで広がるのだろうか。西山ライフデザイン 西山広高代表に聞いた。(リビンマガジン編集部)


勝どき橋から望む湾岸エリア (画像=写真AC)

マンションの価格推移

下図が示すように、南関東の分譲マンション価格は2013年頃から高騰し始め、この4年で1.3倍程度に上昇しています。

 
中でもタワーマンションの価格は大きく上昇しました。
ここ数年で新築分譲されたタワーマンションの価格設定には驚かされました。例えば、タワーマンションの開発が著しい武蔵小杉は、開発が始まった2000年代に販売坪単価200万弱だったものが、2013年頃には坪単価300万円を超えています。また、都心から少し離れた立川や国分寺のマンションでも坪単価300万円を大きく超えるなど、少し前には考えられない値段がついています。


湾岸マンション高騰の理由

週刊現代の記事では湾岸タワーマンションから大暴落が始まるとしています。ここでいう湾岸エリアは主に東京都中央区の勝どきや晴海、月島、勝どき、江東区の豊洲や有明、港区芝浦、海岸、台場といったエリアです。

これらのエリアのマンション価格が上昇した要因としては下記があげられます。

1.アクセスの良さ

湾岸エリアのタワーマンションは都心部や新幹線駅等へのアクセスが良く、一方で旧来から一定のステイタスを維持している千代田区、港区(麻布・広尾周辺など湾岸部以外)などのエリアに比べて、割安感があったことから需要が高まり、大量に物件が供給されました。

2.オリンピック開催決定

2013年9月に2020年東京オリンピックの開催が決定し、湾岸部がその開催エリアの中心地になりました。これにより周辺のインフラ整備などが急速に進むと期待されました。豊洲市場の問題や一部の計画見直しなどはありましたが、道路の整備なども進み、都心部と湾岸部の交通インフラの整備は着々と進んでいます。

3.相続税対策

平成25年(2013年)の税制大綱で相続税の増税(税率の変更、基礎控除の減額)が決定しました。その頃からタワーマンションを活用した相続税対策がじわじわと浸透し、需要が高まりました。

4.超低金利

2012年12月に第二次安倍政権が発足し「インフレ誘導推進」の手段として異次元の金融緩和、超低金利政策が実施されています。その状況下、多くの金融商品がパフォーマンスを上げられない中、住宅を含めた不動産投資による運用利回りが相対的に良かったことも影響していると考えられます。
このようにいくつもの要因が重なり、湾岸エリアのタワーマンションは人気が高まり、価格が上がりました。また、この頃から中国人を中心とした外資が不動産に流入しました。「投資目的」でかなりの戸数を購入していると考えられます。


中央区のタワーマンション (画像=写真AC)

現在の状況

私は「タワーマンション」の将来の資産価値に関しては1年以上前から「危ない」と警鐘を鳴らしてきました。

既に湾岸部の一部のマンションでは価格下落の兆候が出ています。今年の2月ごろをピークに下落を始めているように感じます。マンションマーケットのデータによれば、豊洲にある「シティタワーズ豊洲ザシンボル」は、2016年12月に直近3年間で最も高額の坪単価302.6万円を示してから、2017年8月には坪単価251.9万円と、徐々に下降しています。こういった傾向は他のタワーマンションにも見られます。

そういったことから、週刊現代の記事にあるように、売却しようと思ったが半年たっても一向に買い手が付かないという状況も発生しています。湾岸エリアのマンションの一部では多くの物件が売却物件として市場に出ています。

そのうち1割程度がオーナーチェンジ、すなわち賃貸入居者がいる状態で家主が売りに出している物件です。オーナーチェンジ物件の買い手は投資用としての購入になりますが、タワーマンション物件の場合、ほとんどが表面利回り4%台前半。これでは税金や管理費、修繕積立金などの負担を差し引くとほとんど利益は出ず、融資を受けて購入した場合の利息負担も考慮するとキャッシュフローは赤字でしょう。

特に豊洲周辺は、豊洲市場の土壌汚染問題などがありイメージがダウンしたことも要因だと考えられます。湾岸エリアのマンションが建つエリアの多くは埋立地です。昔の埋立地は運び込まれた土壌がその時点で汚染されていたケースも少なくありません。また、液状化のリスクもあります。

これからどうなる?


(画像=写真AC)

既に、タワーマンションの価格は普通のサラリーマンでは手が届かない金額になっています。購入者がいなくなれば価格が下がるのは必然です。これ以上高騰するとは思えません。

タワーマンション節税の今後

タワーマンション節税については、29年度の税制改正で固定資産税評価の見直しが行われます。新規に供給される物件は評価額を、上層階ほど高く、下層階ほど低くするようになりますが、今年中に引渡しが完了する物件までは適用の対象外。その後取引される中古物件でも適用外です。
しかし今後空き家が増える、あるいは価格が下落する兆候が表れると節税メリットが薄れ、リスクも高まることから売り物件が増え、価格下落の流れを助長することにもつながります。

競合物件の増加による賃料下落の懸念

ここ15年のうちに湾岸エリアでは非常に多くの戸数が供給されました。その中には賃貸用、あるいは「分譲賃貸」、すなわち分譲物件を賃貸している物件も数多く含まれます。住宅の賃料はオフィスなどに比べると景気の影響を受けにくいといわれていますが、徐々に下がり始めれば物件価格にも大きく影響します。
豊洲での新規供給はひと段落したと考えられますが、月島や勝どきでは今後も大規模開発の計画があり、オリンピック後には晴海の選手村跡地も開発される予定です。新規供給が増えれば、空室増や賃料下落のリスクも高まります。

管理状態の悪化懸念

「マンションは管理を買え」と言われます。管理状況が悪化するとマンションの資産価値に影響を与えます。
具体的には、
・管理費の滞納による管理不全
・管理組合の機能不全
・マンション内の治安悪化
等が懸念されます。
これらの問題は空き家が増えるだけでなく、居住者同士の価値観の違いによっても起こります。
居住している外国人が共用部を汚したり、騒いだりするケースがあるほか、自国の常識として「管理費」や「修繕積立金」を支払うルールがない国もあり、所有者がマンション外に住んでいると徴収もままならならず、滞納に繋がるケースも増えると予想されます。
マンションを売買する場合、管理費の滞納状況は重要事項として明記されることになりますが、当然滞納額が多ければ価格の下落につながります。
また、マンションを購入する方の動機として、一戸建てに住んでいた方が、セキュリティやバリアフリー、管理の容易さなどの観点から住み換えるケースがあります。このような方は比較的高齢な方が多くなります。
マンションの大規模修繕は新築からおよそ15年程度の周期で計画するのが一般的です。タワーマンションの大規模修繕費は一般のマンションに比べて高額になります。工事が必要な時期に工事代金が高騰していると、従来からの修繕積立金では足りず、追加支出を求められるケースも出てきます。
ところが、タワーマンションでは高層部と低層部で分譲単価も異なり、所有者の資金力も異なります。お住まいの住民の中に高齢者が多くなりがちなこともありますし、外国人や投資目的の所有者が多い場合、管理組合での意見統一も困難になることは想像に難くありません。
マンションは多くの人・世帯が同じ建物に住む共同体です。タワーマンションの中には世帯数が多いことを誇る物件もありますが、その数が多いほど意見の統一も難しくなるでしょう。

まとめ

これからの不動産選びは「将来の資産価値」についての考慮が必要です。その物件や立地と周辺環境の将来性を見極める必要があります。
これから購入される方はもちろん、すでにお持ちの方も、将来売却・買い換えを考えている場合には同様の考えが必要です。
ここ数年マンション価格が上昇し、今後は湾岸エリアでなくても下落するところは少なくないでしょう。価格が下がると、売却するにもローン残債が売却価格を上回り、売るに売れないということも起こります。
住宅は「住む人がいてこそ価値がある」ものです。景気動向などにより、都心部での住宅需要が減少すれば、物件価格が下がり始め、急激に売り物件が増え、価格が急落する可能性があります。
今お住まいのマンションの管理や居住者間で既にトラブルが発生している場合は要注意です。マンションは多くの人の住居の集合体です。自分一人の努力ではいかんともしがたい事態もあるでしょう。
今後、湾岸部をはじめ、急増したタワーマンションの価値が現在に比べて大きく下がることは間違いないと思います。一方、戸建て住宅の価格や住宅地の価格は大きく変動していないことから、日本経済全体を揺るがすような不動産市場の大暴落とまではいかないだろうと考えます。

 
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