不動産の売却を第三者に頼みたい、という場合

自己所有の不動産を売却したいという場合に、「過去に不動産売却を既に経験しているので、勝手は分かっている」という人は珍しい部類に入ります。多くの人が不動産の売却など一生に一度、経験するかしないかという程度のものでしょう。そのため、中には「自分で手続きから何からするのは面倒だし、上手くできるか自信が持てないから、不動産に明るい親戚などに代わりに売却して欲しい」と考える人が居ます。実を言うと、筆者も宅建士であることを理由に「売却作業を代行してくれないか」と依頼されたことがあります。では、そういったことは果たして法的に可能なのでしょうか。以下で見ていきましょう。

不動産売却を委任するということについて

まず、「不動産を売却する」などの行為は法律行為という定義に該当します。こういった法律行為を当人ではなく、第三者に行ってもらう場合には、法律上「委任」という形式によるとされています。「委任」とは、当事者の一方(委任者と言う)が法律行為をすることを相手方(受任者と言う)に委託し、相手方が承諾することで成立する契約です。また、上記のような不動産の売買や賃貸借の委託以外にも、例えば単なる事務処理にあたる(法律行為にはあたらない)行為を委託する場合は「準委任」と呼んで区別されています。ともあれ、不動産の売却を第三者に行ってもらうには”委任する”という手続きが必要となります。委任契約自体に契約書は必須ではなく、両者の合意のみによって成立する性質を有しています。しかし、不動産の売却など多額の金銭が介在する法律行為を委任する際には、当然ながら多くの場合で契約書面を用意して契約が行われます。委任契約の締結後、受任者は”善良な管理者の注意義務”を課せられて法律行為を代行することになります。”善良な管理者の注意義務”とは、例えば不動産の売却においては「自己の不動産を売却する場合と比較して、より細心の注意」を求められるということであり、非常に高度な注意義務を課されると考えるべきでしょう。また、委任は原則として無報酬であり、報酬を受け取る場合にはあらかじめ特約で定めた上で、後払いを原則とすることとされています。このように、委任契約は受任者からすれば割に合わない契約となりがちであり、そのため前述の依頼についても筆者は丁重にお断りしました。ただ、不動産の売却を行う者が専門的な知識を有する方が交渉を有利に運びやすいのも確かと考えられますので、信頼できる有資格者に見当がつき、その者に相応の報酬を支払うなど十分な対価を用意できる場合には委任を検討してみるのも良いかもしれません。

 
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