映画:『不意打ち』(1964年・米)

監督:ウォルター・グローマン

脚本:ルーサー・デイヴィス

出演:オリヴィア・デ・ハヴィランド、ジェームズ・カーン、他


(撮影=リビンMagaZine編集部)

舞台は1960年代のアメリカ、軍事産業などへの株投資によって莫大な富を築いたコーネリア夫人は息子のマルコムと二人で豪邸に住んでいる。半年前に腰の骨を折った夫人は、杖での生活を余儀なくされた。骨折後に取り付けた柵状の自宅エレベーターは、一階と二階を行き来するためのものだ。

ある夏の日、マルコムは友達たちと泊りがけでピクニックに出かける。家で一人になった夫人は、いつも通りエレベーターで二階に上ろうとした。ところが、いくつかの偶然が重なり、エレベーターは地上3mの位置で停止、夫人はエレベーターに閉じ込められてしまった。

夫人は、非常ベルのボタンを押す。非常ベルは家の外に繋がっており、往来の人々にエレベーターで異常が起きていることを知らせるのだ。ベルに気付いたのはアル中で浮浪者のジョージだった。ジョージは家に忍び込み様々なものを物色する。高級なトースターを持ち出し質屋に買い取らせ、娼婦のセードも引き連れてさらに装飾品を盗み出そうとする。しかし不幸はこれだけで終わらない。ジョージの後をつけていた街のゴロツキのランドールとその女イレイン、子分のエシーの3人も加わり、助けを懇願する夫人の前で様々な蛮行が繰り広げられる。

途中、何回か電話が鳴る。指輪を使って取り外したアルミサッシと杖をくくり付けた棒を伸ばし、夫人は受話器を外して助けを求めようとする。

しかし、棒は届かずバラバラになり、電話は鳴りやんでしまった。

部屋を物色していたランドールたちは、息子マルコムが夫人に宛てた手紙を見つける。

大切なママ、僕は来週30歳です。チャンスはもう少ないです。僕は離れようとしました。あなたは部屋を増やし 家を飾り―誘惑した。居間の金庫にある僕の取り分をください。あなたの気前良さと美から僕を開放してください。愛から解放してください。追伸。よく考えてください。後で電話します。僕の希望を聞き入れてもらえないなら僕は自殺します

手紙の内容から、夫人とマルコムの異様な親子関係が垣間見えると同時に、先ほど鳴っていた電話が意味するものが何だったのかが判明する。マルコムはピクニックになど行っていなかったのだ。

思い返せば序盤のシーンで、息子に「ダーリン」と呼ばせたり、あいさつ時の濃厚な口付けなどは、親子の一線を越えたものだった。

自宅にいながら自由と財産を奪われていく夫人。その一方で息子からは精神的な自由を奪っていたのだ。

白人の裕福な女性が被害者だと思っていたが、実は加害者でもあった。これは1950~60年代の公民権運動を投影しているのではないか。白人から見れば「野蛮な形で自分たちの権利を収奪しようとしている」そういった主張も多かった。しかし、収奪されていると思っていた自分たちも、人々の権利を奪っていたことに気付くのだ。

終盤、危機を脱した夫人は、逃げるイレイン、エシーに向かって「人殺し 野蛮人 モンスター」と叫んだ。往来の人々もその騒ぎを聞きつけて集まってくるが、狂ったように叫ぶ夫人を畏怖の目で見る。モンスターなのは夫人なのか、ゴロツキたちなのかどちらかわからない。

ラストシーン、夫人には荒らされた家と、帰ってこない息子への悲しみだけが残った。

泣いているのか笑っているのわからない夫人の表情は、絶望という言葉を想起させるには十分だった。

 
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