Trainspotting / トレイン・スポッティングTrainspotting / トレイン・スポッティング / Kentaro Ohno

「トレインスポッティング」(1996・イギリス)
監督:ダニー・ボイル
脚本:ジョン・ホッジ
出演:ユアン・マクレガー、ロバート・カーライル、ジョニー・リー・ミラー、ユエン・ブレムナー、ケヴィン・マクキッド、ケリー・マクドナルド、他

舞台は不況のさなかにあるスコットランドのエディンバラ、ヘロイン中毒のレントン(ユアン・マクレガー)はその仲間たちと怠惰な生活を送っていた。何度もヘロイン断ちを試みるレントンだが、うまくいかなかい。そんななかで、仲間のスパッド(ユエン・ブレムナー)が窃盗の罪で逮捕される。レントンは社会復帰のため本格的な薬物治療を受け、ヘロイン断ちに成功、全うな生活を求めてロンドンで仕事に就く。しかし、ロンドンの部屋に、かつての仲間であるベグビー(ロバート・カーライル)とシック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー)がやってきて、生活は徐々に変化していく。

『トレインスポッティング』は、1996年に公開されたダニー・ボイル監督による2作目となる作品だ。イギー・ポップやアンダーワールド、ニューオーダーなどのスタイリッシュなBGMにのせて描かれるヘロイン中毒者の日常は、日本に限らずヨーロッパやアメリカでも人気を博した。若者たちは、映画のテーマであるドラッグやクラブといった刹那の快楽では抜け出すことのない「ノーフューチャー」に共感し、その独特なファッションにも影響を受けた。ポスターを部屋に貼る者も続出した。

ロンドンに出てきたレントンは、不動産会社に就職する。
それを追ってやってきたベグビーとシック・ボーイは、レントンの家に強制的に居候する。しかし、我が物顔で部屋を汚すベグビー、家財を勝手に売るシック・ボーイに辟易したレントンは、2人を「最低な場所に送ろう」と、追い出すことを決意する。自身が勤める不動産会社が持っているマンションに無断で住まわせてしまうのだ。「当然 ボスに内緒だから客が見にきた時、2人は危機を感じた」。そしてレントンは会社をクビになる。

しかし、こうした無断で空き家に住む文化が、イギリスやオランダ、ドイツといった欧米諸国にはあるのだ。空き家や所有者が不在の家を違法に占拠する「スクウォッター(スコッター・スクワッター)」という人々がいる。就職や就業の機会を求めて、都市部に地方の住民が集中したり、不景気によって貧困に喘ぐ住処のない人々が「スクウォッター」になるのだ。2011年のイギリスの調査では、国内におけるスクウォッターの数は2万人だと発表している(Ministry of Justice(2011年))。

結局、レントンは地元に帰り、ヘロイン中毒者に戻ってしまう。一度は手に入れかけた平穏な暮らしは一瞬にして消えてしまった。

見通しのない不況と、そこから生まれた貧富の差は、現在のイギリスにも暗い影を落としている。2017年、6月14日発生したグレンフェル・タワーでの火災は、70名以上の死者を出した。グレンフェル・タワーは、「カウンシル・フラット」と呼ばれる公営住宅で、主に低所得者が住人だった。

今の日本に目を向ければ、イギリス同様徐々に貧富の差は拡大傾向にある。もしかしたら、20年前に公開された『トレインスポッティング』は、未来の日本の姿を映しているのかもしれない。

ちなみに今年20年ぶりに第一作の続編『T2 トレインスポッティング』が日本でも公開され、大きな話題を呼んだ。第一作とキャストも同じだ。エディンバラに帰ってきたレントンと、当時の仲間との関係が20年の時を経て再び描かれている。

敬称略

銀座ソニービルの解体工事現場のイラストレーション (撮影=リビンマガジン編集部)

 
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