朝日新聞毎週掲載、「福岡伸一の動的平衡」 (撮影=リビンマガジン編集部)

(福岡伸一の動的平衡)が面白い

このご時世、珍しいかもしれませんが、新聞は毎朝4紙に目を通します。全紙を熟読玩味しているといいたいところですが、なかなかそうもいかず、主要な記事以外は流し読み程度になってしまいます。
そんな中でも、欠かさず読んでいるのが木曜日の朝日新聞・朝刊に掲載されているコラム「福岡伸一の動的平衡」です。

分子生物学者で米国・ロックフェラー大学客員教授の福岡さんが執筆されている500文字ほどの短いコラムですが、毎回なにがしかの発見を与えてくれます。
6月15日のコラムでは「家に住むなら賃貸と購入どちらが良いか」という長きに渡って語られる命題について書かれています。
この難問を福岡博士はナメクジとカタツムリを使って考察します。
コラムはまず、ナメクジが進化してカタツムリになった、という読者の思い込みをひっくり返します。
カタツムリはナメクジの進化形ではなく、もともとあった殻をカタツムリが捨ててナメクジへと進化したのが真相だそうです。世界には殻の痕跡を残したナメクジがおり、そのことから進化の過程がはっきりわかったそうです。初めて知りました。
ではなぜカタツムリは安全で快適な殻という「自宅」を捨てたのか、謎は深まります。福岡博士によると、
「持ち家」の負担に耐えかねたからである。殻を作り維持するには膨大なカルシウム摂取とエネルギーが必要。いっそ殻を脱げば、そんな苦労もないし身軽、隠れたいときは隙間にも潜れる。すると新しい餌にもありつける。

そう維持管理費が問題なのだそうです。確かに、古くなりアチコチ痛んでくる建物の修理代はバカになりません。ましてや建て替えとなると、負担はさらに大きい。そんなものは大家さんに任せて、さっさと別天地に移動してしまおうというわけですね。昨今の空き家問題を考えると深くうなずける話しです。
生物の進化からみれば賃貸派の圧勝ということですね。と、早合点してはいけません。福岡博士はこうまとめて、コラムを終えています。

大切なことは、たった今、ナメクジもカタツムリもちゃんと共存共栄しているという事実。どちらが有利・不利ということではなく、選択の自由があり、生き方の違いが許されていること。これが生物多様性の要諦(ようてい)である。

自分なりの生き方、住まい方をすれば良いのであって、誰かと比較してどちらが賢いかなんて考えなくていいんですね。

カタツムリ (画像=写真AC)

この他にも、記憶の構造から昨今の何かと発言が危なっかしい政治を風刺したり、飛翔体が行き交う国際情勢について成層圏の景色から新しい見方を教えてくれたりします。毎回、ユニークな視点と、風刺を忍ばせる技術に驚かされます。

新聞ギョーカイでは、コラムはとても重視されます。大手新聞には1000人以上の記者がいますが、コラムを書ける人は数人しかいません。「社長の代わりはいても、コラムニストの代わりはいない」と言われるほどです。
面白い視点を持った人や、幅広い教養を持った人はいます。しかし、その知見を柔らかい文章で、面白く紹介するには別の力が必要です。正しいことが書いてあるだけではダメなのですね。
その点でも福岡さんのコラムは秀でています。エンタメのコーナーで紹介させていただきました。

(編集部)

 
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