6月16日は東海林さだおの漫画「アサッテ君」が毎日新聞朝刊で連載開始された日だ。

万年平社員の朝手春男(あさってはるお)を主人公にした4コマ漫画。1974年の6月16日から始まり、2014年の12月31日まで約40年も続く長期連載となった。通算にして1万3749回は金字塔と呼ぶにふさわしく、日本国内における全国新聞の連載漫画として過去最長とされている。


「アサッテ君」 (画像=リビンマガジン撮影)

「アサッテ君」に限らず、東海林の連載漫画は、長期にわたるものが多いことで知られている。週刊文春掲載の「タンマ君」は1968年、週刊現代掲載の「サラリーマン専科」は翌1969年に開始されたもので、半世紀に届かんとする今も続く長期連載となっている。

内容はサラリーマンを中心に市井の人々の視点から日常を描くものがほとんどで、些細なことで一喜一憂する小市民を取り上げる作風が、頼りなげな描線とともに大きな特徴となっている。

またエッセイの名手としても独自の地位を築いており、週刊朝日やオール讀物などで連載している。極端に改行が多い、小気味よい文体がおなじみで、食事や風呂など生活で気づいたことを、恐ろしいほどの観察眼で考察していく。各界に根強いファンがおり、例えばノンフィクション作家の野村進は東海林を「文章の天才」と評している。

ちらし寿司について言及した文章を引いてみる。

 五目散らしは、ただ無意識にばくばく食べているようにみえて、実はその意識化で細かな配慮をしながら食べているものなのだ。

 たとえば、一口分を箸ですくいとろうとして、ふと、その近所のシイタケのいっぺんを取り寄せて加え、その一口分の味の濃厚化をはかったりする。上に載りすぎている錦糸卵を少しわきへよけ、具の均質化をはかったりする。

 たまたま混ざりこんでしまった酢バスの一切れを、

 「キミはこん次ね」

 と、わきへよけたりする。

 よく混ざりきれずに白くかたまっているゴハンを箸の先で突き崩し、そこへ各方面からさまざまな具を一つ一つ持ち込んで、急遽、均質な五目ちらしとなす。

 導入と排除。

 常にこの二つの作業に心を痛めつづけているのだ。

 絶えまなく内容物の点検を行い、絶え間なく適正な配合に心をくだく。

 すでによく混ざっているはずの具と酢めしの配合を、さらに細かく再調整することを怠らない。

 それは、ただ白いだけのゴハンを食べているときと比べてみれば、その違いがよくわかるはずだ。

アサッテ君連連載中は、月間50本の締め切りをこなしながら、万事このクオリティを続けていたのだ。

その仕事ぶりは、八王子にある自宅から西荻窪の仕事場まで電車通勤の日々だったという。「出社」すると数日間は泊まり込みで仕事、頃合いをみて自宅にもどり数日過ごせば、また通勤の生活だったという。

40年の新聞連載では一度も病気休載しなかったが、連載終了後の2015年には肝臓ガンを患い手術。闘病記と呼ぶにはあまりにも力が抜けすぎている「ガン入院オロオロ日記」を上梓した。ここでも異常なまでの観察力で病院内を描写している。

敬称略

 
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