相続に対するイメージの中で『財産が多い人ほどトラブルになりやすい』と考えている方もいると思います。下記の数値は、最高裁判所が公表している資料の一部を抜粋したものです。
 
【遺産分割事件の遺産額別件数(※1)】
1,000万円以下         2,784件   32.0%
1,000万円超5,000万円以下   3,731件   42.8%
5,000万円超1億円以下     1,094件   12.6%
1億円超5億円以下        565件   6.5%
5億円超              44件   0.5%
算定不能・不詳          492件   5.6%
(調停成立又は審判認容により終局した事件数n8,710件)

 

 この資料をみると、家庭裁判所において調停・審判を受ける件数は、むしろ比較的少額の遺産相続がトラブルになっていることがわかります。遺産総額が1億円を超える相続自体の件数が相対的に少ないとしても、1,000万円以下と1,000万円超5,000万円以下を合わせた件数は、全体の74.8%を占めています。
 
 
 つまり、『財産が多い人がトラブルになりやすい』というより、むしろ金額の多少よりも「財産が分けやすいか否か」が、トラブルの発端になっているようです。
とりわけ、残された相続財産が“自宅不動産がほとんど”というケースでは、「分け難い」ためトラブルの原因となりがちです。
 

 例えば、相続人が子ども二人、一方の子どもが同居しており被相続人(亡くなった方)の介護をしており、相続財産が1,000万円評価の自宅と葬式代と称して残しておいた200万円の現金であったと仮定した場合、同居していた相続人は引き続き自宅に住み続けるために自宅を相続することを希望するでしょう。
 
 
 すると自宅を相続した一方が1,000万円、現金すべてを相続したとしても、もう一方が200万円では不均衡が生じてしまいます。同居の相続人にとってみれば自宅の居住は現状の追認に過ぎず、財産を受け取るという認識が薄くなりがちになります。さらに「介護もしていた」という状況をも持ち出し、幾ばくかでも現金を要求する事態にでも発展すると、収拾がつかなくなることは容易に想像できます。
 その結果、不公平感から不満・不信へと発展し「遺産分割協議がまとまらず、家庭裁判所で白黒決着を付けざるをえない」という解決方法になってしまいます。
 
 
 調停にしても審判にしても、家庭裁判所へ持ち込まれるケースでは、血を分けた家族が財産をめぐってトラブルになるわけですから、感情的なしこりが残ってしまいその後絶縁状態に至ってしまう可能性が高まります。このような事態は「何としても避けたい」と思うのは、当然の感情だと思います。
 
 
そのほか、相続トラブルに発展しやすい原因として
* 家長制度の名残と法定相続分
* 相続人間における生前贈与の有無および贈与金額の格差
* 家業・事業の承継問題
* 被相続人におこなった介護の世話という貢献分の主張
* 兄弟・姉妹といっても異なる家庭の事情
* 相続人ではない相続人の配偶者などの意見・助言
* 被相続人の生前の発言(言った・言わない、聞いている・聞いていない)
 その他が、原因でトラブルに発展してしまうようです。いずれも相続財産の多少が主な原因とは限りません。

 多額の財産をめぐって「多くの財産を獲得したい」というトラブルは、ドラマの世界としては面白いかもしれませんが、それはむしろ稀有なことかもしれません。
 お金持ちの他人事ではなく、相続財産の多い少ないに限らずトラブルは発生しないとも限りません!「我が家に限っては・・・」という気持ちになりやすいとはいえ、いざという時に慌てないためにも“相続の準備”は考えておいたほうが無難でしょう!

※ 1最高裁判所;裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第6回)平成27年7月10日公表・資料編2・資料5第3回及び第4回報告書において指摘した長期化要因の継続的検証・表42遺産分割事件の遺産額別の平均審理期間、平均期日回数及び平均期日間隔より
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/hokoku_06_shiryo2.pdf

 
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