国際相続課税8
-日本とカナダを跨ぐ相続-
Ⅰ.はじめに
今回は、相続税の掲載についての最後の記事です。
そこで、日本に不動産を残して外国に移住された方が、その後帰化し、外国人として亡くなられた場合の相続関係の総まとめとして、ここまでの理解を前提に、複雑な具体例に即して相続税の計算過程を紹介します。
Ⅱ.国際相続課税の具体例
1.事案の確認
今回は前回の事案に手を加えます。まず前回の事案のおさらいですが、被相続人はカナダ在住のカナダ国籍の方です。被相続人には配偶者、長男、長女、次男がいます。配偶者及び長男はカナダ在住のカナダ国籍、長女は日本人と結婚した日本在住の日本国籍、次男は仕事の都合で日本に来ているカナダ国籍、という事案です。また、遺産として、カナダに預金、日本に不動産があるとします。
この事案において、仮に、日本の不動産(1億2000万円相当)を売却し、遺産分割の結果、配偶者が6000万円、長男が2400万円、長女が1800万円、長男が1800万円を取得したとします。また、カナダの預金7200万円のうち、遺産税900万円を除いた6300万円を相続分に応じて、配偶者が2100万円、子らが各自1400万円取得したとします。
2.第1段階 課税価格の計算
(1)序
配偶者と長男は、制限納税者であり、カナダにおける預金は日本の相続税の対象となりません。他方、長女と次男は居住無制限納税者であり、カナダの預金も日本の相続税の対象となります。このように、相続人毎に家財対象となる財産の範囲が異なります。
そこで課税価格の計算に当たっては、相続人毎に、国内と国外の課税資産を分けて計算をする必要があります。
ただ、カナダは日本と異なり、被相続人の死亡と同時に、被相続人の財産について遺産財団が構成されます。そして、被相続人の人各代表者による債務の弁済、納税の結果、積極財産が残存する場合に初めて、法定相続分に応じて、積極財産が相続人に配分されます。ここでは既に遺産から900万円の税金を払っていますから、被相続人のカナダに存在した遺産はカナダにおいて既に納税が完了していることになります。
日本における相続税の計算に当たっては、相続人が実際に取得した遺産に、カナダで遺産に課された税金(900万円)のうちの法定相続分を加えた金額(900×2/3×1/3=200)を加算し(後に控除することとして)、カナダにおける財産の課税価格を計算するのが実務上の取り扱いとなります。言い換えれば、カナダで既に納税されていますが、日本の相続税の計算においては、カナダで納税する前の金額を前提にするということです。
(2)国内の課税価格
各人の国内財産の課税価格は次のとおりです。
配偶者:6000万円
長男: 2400万円
長女: 1800万円
次男: 1800万円
したがって、相続人の日本における課税価格の合計額は次のとおりです。
1億2000万円
(3)国外の課税価格
各人のカナダ所在財産における課税価格は次のとおりです。
配偶者:0万円
長男:0万円
長女:1600万円(1400万円 + 200万円)
次男:1600万円 (1400万円 + 200万円)
したがって、各人のカナダ所在財産における課税価格の総額は次のとおりです。
3200万円
(4)課税価格の相続
以上を踏まえると、各人の日本及びカナダにおける課税価格は次のとおりです。
配偶者:6000万円
長男: 2400万円
長女: 3400万円
次男: 3400万円
相続人の日本及びカナダにおける課税価格の合計額は次のとおりです。
1億5200万円
3.第2段階 相続税の総額の計算
まず、基礎控除を考えます。
遺産に係る基礎控除は次のとおりです
3000万円 + (600万円) × 4 = 5400万円
したがって、課税遺産総額は次のとおりです。
1億5200万円 - 5400万円 = 9800万円
そして、これを前提に各続人の民法の規定(民法900条)の相続分に応ずる取得金額を計算します(法定相続分課税方式)。
配偶者 9800万円 × 1/2 = 490万
子ら 9800万円 × 1/2 × 1/3 = 1633万3000円
これに、相続税の速算票の相続税率を適用して計算した相続税額は次のとおりです。
配偶者 4900万円 × 20% – 200万円 = 780万円
子ら 1633万3000円 × 15% – 50万円 = 194万9000円
したがって、相続税の総額は次のとおりです。
780万円 + 194万9000円 × 3 = 1364万7000円
4.第3段階 各人の相続税額
(1)相続税の案分割合
まずは、案分割合を計算します。
(相続人) (課税価格) (課税価格の合計額)(案分割合)
配偶者 6000万円 ÷ 1億5200万円 = 0.4
長男 2400万円 ÷ 1億5200万円 = 0.16
長女 3400万円 ÷ 1億5200万円 = 0.22
次男 3400万円 ÷ 1億5200万円 = 0.22
案分の合計 1
(2)各人の算出相続税額
案分割合を基に、先に計算した相続税の総額を掛けて、各人の相続税額を計算します。
(相続人) (相続税の総額) (案分割合)(各相続人等の算出相続税額)
配偶者 1364万7000円 × 0.44 = 600万4000円
長男 1364万7000円 × 0.16 = 218万3000円
長女 1364万7000円 × 0.22 = 300万2000円
長男 1364万7000円 × 0.22 = 300万2000円
5.第4段階 各人の納付税額
(1)配偶者控除
配偶者の課税価格は6000万円であるので、課税価格の合計額のうち配偶者に係る法定相続分相当額(1億5200万円×1/2=7600万円)以下であり、配偶者控除によって納付税金は0円になります。
(2)外国税額控除
長女および次男は、日本法的に考えれば、カナダのケベック州において、200万円を納税している状態にあります。これが、日本の相続税に相当するものであれば、その額を外国税額控除として控除することができます。この場合には、100万2000円を相続税として、納税しなければなりません。なお、相続税に相当するものと判断されなかった場合には、不動産取得税や課税価格の算定における債務として差し引くこととなります。
これに対し、長男は制限納税義務者であり、カナダの財産は日本に課税されないことから、二重課税を回避するための外国税額控除が認められず、218万3000円を納税しなければなりません。
Ⅲ.結び
今回は、国際相続の総まとめとして、渉外相続の計算につき複雑な具体例に即して相続税の計算過程を紹介しました。
相続税の計算は非常に複雑であり、更に国際相続となると、法律の知識がない方にとっては全くイメージができないかもしれません。これまで連載により、読者の方に、少しでの国際相続課税につき、イメージを持っていただけたら幸いです。
(以 上)