国際相続課税-相続税4

Ⅰ.はじめに

今回は、前回に引き続き、日本に不動産を残して外国に移住された方が、その後帰化し、外国人として亡くなられた場合の相続関係について、日本の相続税法上の問題の前提として、相続税の計算方法を簡単な渉外相続の具体例に即して紹介します。

Ⅱ.相続税の計算の具体例(相続人及び被相続人がいずれもカナダ人である場合)

以前紹介したように、我が国の相続税の課税方式は法定相続分課税方式を採用しております。これは、遺産取得課税方式を採用した結果生じた、仮想の遺産分割による相続税の回避を防止するために導入されたものです。そのため、法定相続分課税方式で用いる法定相続人の数及び法定相続分は、それを前提に相続税額の総額を確定するための計算上、便宜的に用いるだけです。

したがって、相続税額の総額の算出の次のステップとして、各相続人に課税される額を計算する過程において、民法と異なる相続分を定めた場合はもちろんのこと、国際相続の場合には相続分などにつき適用される諸外国の法律に沿って修正が必要になります。とりわけ、被相続人の財産を誰が、どのように、相続し、その相続分はどれくらいか、という相続人の範囲と相続分の決定は、各国の家族制度や実情を反映した各国の家族法によって異なる定めを置いています。

そして、カナダは米国と同様に州毎に相続法が異なりますが、ケベック州の民法上の相続分は、配偶者と子だけが相続人である場合、配偶者1/3、子ら2/3となっています。

以下では事案を次のように単純化し、渉外相続の場合の相続税の計算方法を紹介したいと思います。

被相続人の死亡時にカナダには一切財産がなく、日本国内だけに、12000万円(債務と葬式費用を控除後)の預金が日本の銀行に存在する。相続人は、配偶者、長男、長女、次男で、いずれもカナダ国籍、カナダ在住であったとする。そして、共同相続人間の協議の結果、カナダの法定相続分どおり、配偶者が4000万円、長男が8000/3円、長女が8000/3万円、次男が8000/3万円を取得した。

この場合の我が国の相続税はどのように計算されるでしょうか。

1.第1段階 課税価格の計算

各相続人の課税価格は、遺産分割の内容に従って、次のとおりになります。

配偶者:4000万円

長男: 8000万円/3

長女: 8000万円/3

次男: 8000万円/3

これを合計すると、課税価格は次のとおりになります。

4000万円+8000万円/3×312000万円

2.第2段階 相続税の総額の計算

(1)遺産にかかる基礎控除額

次に、基礎控除額を算出することになります。おさらいですが、現行法では基礎控除額は次のとおりになります。

3000万円+(600万円×法定相続人)=基礎控除額

本件の法定相続人は日本民法に従うと、配偶者、長男、長女、次男の4人ですので、本件の基礎控除額は次のとおりになります。

 3000万円+(600万円×4=5400万円

(2)課税遺産総額

したがって、課税対象となる遺産の総額は以下のとおりになります。

 12000万円-5400万円=6600万円

(3)相続税額の総額の計算

 各相続人の民法の規定(民法900条)の相続分に応ずる取得金額は次のとおりになります。これが、法定相続分課税方式であり、日本の民法の法定相続分を前提に相続税の総額を計算することになります。

 配偶者 6600万円×1/2=3300万円

  各子  6600万円×1/2×1/3=1100万円

これに、相続税の速算表の相続税率を適用して計算した相続税額は次のとおりです。

 配偶者 3300万円×20%-200万円=460万円

 各子  1100万円×15%-50万円=115万円

 したがって、相続税の総額は、460万円+115万円×3805万円となる。

3.第3段階 各人の(算出)相続税額の計算

 第2段階により、本件に課される相続税額の総額が算出できました。次は、実際に取得した割合を基に、各相続人に課されるべき相続税額を計算することになります。本件では遺産分割をしていますのでこれによりますが、遺産分割がない場合には日本の国際私法によって決定される準拠法に照らして、実際に取得することになる割合を決定することになります。

(1)相続税の案分割合

 まずは、以下のようにして、各相続人の案分割合を計算します。

(相続人) (課税価格)  (課税価格の合計額)(案分割合)

 配偶者   4000万円  ÷  12000万円  =1/3

 長男    8000/3万円 ÷  12000万円  =2/9

長女    8000/3万円 ÷  12000万円  =2/9

 次男    8000/3万円 ÷  12000万円  =2/9

案分の合計                              1    

(2)各相続人等の相続税額

 そして、第2段階で算出した相続税額の総額に各相続人の案分割合を掛けて、各相続人の相続税額を計算すると、以下のようになります。

(相続人) (相続税の総額) (案分割合)(各相続人等の相続税額)

 配偶者   805万円  ×  1/3   = 2415000

 長男    805万円  ×  2/9  = 1788000

 長女     805万円  ×  2/9  = 1788000

 次男     805万円  ×  2/9  = 1788000

4.第4段階 各人の納付税額の計算

3段階までで、各相続人の相続税が算出されたが、特別な控除によって、これと実際に納付する額が異なる場合があります。本件では配偶者控除が問題となります。

配偶者の課税価格が16000万円を超えない限り、配偶者は相続税がかかりません。

本件相続人のうち、配偶者の課税価格は6000万円であり、これは16000万円以下であるので、実際には納付する必要がないことになります。

当然、被相続人の配偶者ではない他の相続人(長男、長女、次男)は納付する必要があります。

 

 

Ⅲ.結び

 今回は、渉外相続における相続税の計算方法を具体例に即して紹介しました。今回までの計算方法につき、理解を深めていただけたでしょうか。

次回では、相続人間の国籍が異なる場合の相続につき、紹介します。

 

(以 上)

 
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