国際相続課税-固定資産税(22

 

 

Ⅰ.はじめに

前回の記事では、日本に不動産を残して外国に移住された方が、その後帰化し、外国人として相続が生じた場合、日本の租税法上生じる問題点を、固定資産税に着目して解説した。

今回の記事では、被相続人が亡くなって以降、長年支払われていなかった固定資産税につき、相続人らがどこまで責任を負うかについて紹介する。

Ⅱ.事例

被相続人(カナダ人)は、日本からカナダに移住し、カナダ国籍を取得し、カナダ人のケベック州で配偶者と結婚し、長男、長女及び次男を設けた。

長女は日本人と結婚し、日本国籍を取得して、日本に住んでいる。

次男は長女を慕って来日し、日本の大学を卒業し、日本で就職している。

被相続人が、日本に不動産(時価12000万円)を残して死亡した。

その約10年後に、日本に被相続人の不動産が存在することを知った相続人らは、不動産を日本に住所を有する日本国籍の親戚に贈与した。

なお、本件不動産の登記名義人は被相続人のままである。

この場合、各相続人は日本において固定資産税を支払う必要があるか。

Ⅲ.固定資産税を免れる措置

 この場合において、固定資産税の納税義務を免れる方法として考えられるものは、消滅時効である。

この点につき、国税通則法及び地方税法は、租税の徴収権は、原則として法定納期限から5年間行使しないことによって、時効により消滅する旨を定めている(国税通則法721項、地方税法181項)。なお、偽りその他不正の行為によって免れ又は還付を受けた租税については、その時効は、原則として法定納期限から2年間は進行しないこととされている(国税通則法733項、地方税法18条の23項)ため、最長でも7年で消滅する。

また、租税債権の消滅時効は、絶対的消滅原因であって、納税義務者の援用を必要とせず、また、その利益を放棄することもできない(国税通則法722項、地方税法182項)。消滅時効の中断理由としては、更正又は決定、各種加算税にかかる賦課決定、納税に関する告知、督促、交付要求の処分がなされたときとする(国税通則法732項、地方税法18条の21項)。

本件では、相続後約10年を経過しており、また、中断理由も存在しない。そして、援用を待たず時効消滅するため、本件の固定資産税のうち、5年よりも前に発生した固定資産税については、具体的措置を講ずることなく時効消滅している。

したがって、当該部分については、固定資産税の納付義務を負わない。

 

Ⅳ.結論

前回の記事において紹介したように、外国人であっても、日本国内の不動産について所有者となれば納税義務を負い、登記簿に所有者として登記されている場合には課税通知が届くことになる。したがって、国際相続により長年相続登記をしていないという事案の場合、後年、手続をして相続人登記をした段階で、相続人に対し、遡って5年分の課税通知がなされることになる。

したがって、こうした場合でも、日本国内に住所を有しない外国人の場合には、納税管理人を選出すべきであり、やはり、租税法に精通した語学堪能な専門家に依頼することが不可欠となろう。

                                                                                           (以 上)

 
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