国際相続課税-固定資産税(12

 

 

Ⅰ.はじめに

国境を跨ぐ相続には複雑で多様な法律問題を内包している。とりわけ、大陸法を継受した我が国の相続関連諸法と、英米法系諸国の相続関連諸法は大きく異なり、明文の規定もなく、未解決の問題も少なくないことは以前の連載で述べたとおりである。

今回は日本に不動産を残して外国に移住された方が、その後帰化し、外国人として相続が生じた場合、日本の租税法上生じる問題点を、ここでは固定資産税に着目して解説する。

Ⅱ.事例

被相続人(カナダ人)は、日本からカナダに移住し、カナダ国籍を取得し、カナダ人のケベック州で配偶者と結婚し、長男、長女及び次男を儲けた。

長女は日本人と結婚し、日本国籍を取得して、日本に住んでいる。

次男は長女を慕って来日し、日本の大学を卒業し、日本で就職している。

被相続人が、日本に不動産(時価12000万円)を残して死亡した。

その約10年後に、日本に被相続人の不動産があることを知った相続人らは、不動産を日本に住所を有する日本国籍の親戚に贈与した。

なお、本件不動産の登記名義人は被相続人のままである。

この場合、各相続人は日本において固定資産税を支払う必要があるか。

Ⅲ.固定資産税

1.納税義務者

固定資産税の納税義務者は、賦課期日現在における固定資産の所有者である(地方税法3431項、359条)。所有者とは、土地又は家屋について、土地登記簿若しくは土地補充課税台帳又は建物登記簿若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者をいうが(同法3433項)、所有者として登録又は登記されているものが死亡しているときは、賦課期日の現所有者をいう(同法3432項)。

本件では、被相続人が存命の期間は被相続人が納税義務者であるが、現在に至るまで、登記名義人は被相続人となっている。そのため、被相続人死亡後は各相続人が、贈与後は親戚が納税義務者となる。

2.計算

固定資産税の税額は、固定資産課税台帳に登録された固定資産の価格等(評価証明記載の額)に、各市町村(大規模償却資産については都道府県)の条例で定める税率(標準課税率1.4%)を適用することによって算出される(地方税法3501項、741条)。

本件では、仮に、12000万円が評価証明記載の額として、不動産所在地の税率が1.4%とすると、12000万円×1.4%168万円が、土地の固定資産税となる。

固定資産税は、共有の場合、連帯納税義務を負う(地方税法10条の21項)。したがって、各相続人は、その持分に応じて、割合で、固定資産税を内部負担することとなる。

実際は、最も多く持分を有する者を代表者として課税通知が届くようになっている。

Ⅳ.結び-次回に向けて

以上のように、外国人であっても、日本国内の不動産について所有者となれば納税義務を負い、登記簿に所有者として登記されている場合には課税通知が届くことになる。

しかし、国際相続により長年相続登記をしていないという事案の場合、今まで支払われていなかった固定資産税を全額払う必要があるのか、という問題がある。この点は次回の記事で紹介する。

このように、相続に関する税金の問題は複雑であり、日本国内に住所を有しない外国人の場合には、納税管理人を選出すべきであり、やはり、租税法に精通した語学堪能な専門家に依頼することが不可欠となろう。

                                                                                                                                                 (以 上)

 
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