国際相続課税-相続税

 

 

Ⅰ.はじめに

国境を跨ぐ相続は複雑で多様な法律問題を内包している。とりわけ、大陸法を継受した我が国の相続関連諸法と、英米法系諸国の相続関連諸法は大きく異なり、明文の規定がないため未解決の問題も少なくないことは以前にも述べたとおりである。

今回から、日本に不動産を残して外国に移住された方が、その後帰化し、外国人として亡くなられた場合の相続関係について、特に問題となる日本の相続税法上の問題を、実際の事例に即して説明していく。日本と外国の相続法制度の違いを、日本の相続税法がどのように評価するか、日本の税務署でも明確にしていない問題も少なくない。

Ⅱ.相続税

1.相続税の機能

相続税は、亡くなった方(被相続人)の財産を相続により取得した配偶者の方やご子息子等(相続人)に対して、その取得した財産の価額を基に課税する租税である。

このように財産が被相続人から相続人に移転する場合、全世界において課税されるわけではない。例えば中国のように相続税が存在しない国もある。しかし、中国のように生産手段の国有、とりわけ土地の国有を認める共産主義国家と異なり、生産手段の私有を認める日本において、生産手段の無制限の相続を認めると、富める者の相続人は富を承継し、富める者でない者の相続人は何も承継することができない。これでは相続を通じて富の偏在、過度の集中が生ずる。そこで、我が国では相続財産の一部に課税をすることによって、富の偏在、過度の集中の防止を図っている。これが相続税である。

2.相続の税の計算の基本方式

わが国の相続税の課税方式は、我が国の課税政策の変更を踏まえて、非常にわかりにくい方式を取られている。

世界に目を転ずると、相続税の課税方式には大別して、遺産課税方式(英米)と遺産取得課税方式(フランス、ドイツ)がある。我が国の相続税は明治38年の相続税法創設以来、遺産課税方式が採られていたが、昭和25年に遺産取得課税方式に改められ、昭和33年に税額の計算にあたり、遺産課税方式の要素が一部取り入れられ、現在に至っている。

まず遺産課税方式とは、被相続人の遺産に着目し、その総額に応じて課税をする制度である。これに対して、遺産取得課税方式とは、個々の相続人等が取得した遺産に着目し、その取得額に応じて課税する方式である。

遺産課税方式は、被相続人の遺産に着目するので、個々の相続人が取得した遺産の額を考慮する必要がなく、租税の徴収を図りやすいという利点がある。しかし各相続人が取得する遺産の額を一切考慮しないため、各相続人間で税負担の不公平が生じやすかった。これでは相続税の導入の趣旨にもとる。そこで、遺産課税方式から、遺産取得課税方式に改められた。しかし、遺産取得課税方式を採用すると、今度は個々の相続人が、仮想の遺産分割によって相続税を容易に回避しうることが判明した。そこで、このような事態を回避するために、法定相続分を前提とした相続額の総額を算定したうえで、各相続人に相続税を案分するという仕組みが導入されたのである。

すなわち、各相続人が相続によって取得した財産の合計をいったん法定相続分で分割したと仮定して相続税の総額を算出し、それを実際の遺産の取得額に応じて案分するということとされた。これが現行の法定相続分課税方式である。

現行の法定相続分課税方式は、上記のような、我が国の租税政策の変更を反映したものとして、難解な制度となっている。

Ⅲ.結び

 今回は、相続税に関する連載の導入として、日本の相続税に基本的な考え方を紹介した。次回以降では、具体的な計算方法について紹介したい。

以 上

 
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