今回ご紹介するのは、東京都内の戸建てに住んでいた母親が亡くなった後に知人が直面した相続問題についてです。知人は5人兄弟の末っ子で、都内の戸建て住宅には兄夫婦が母親と同居していました。父親はすでに亡くなっていましたので、遺産は兄弟5人で相続することになります。1戸しかない戸建て住宅を巡って発生したのが今回の相続問題でした。

 この兄弟は男2人女3人の兄弟でしたが、3人の姉たちは兄嫁のことが嫌いで兄夫婦と折り合いが悪く、「生前満足に母親の面倒をみなかった兄夫婦には家を相続させたくない」と騒ぎ始めました。客観的に見れば、満足に母親の面倒をみなかったという主張は通らない内容だとは思うものの、もともと折り合いが悪いので、心情的に兄夫婦に都内の一等地にある戸建てを丸ごと持っていかれるのが嫌だったのでしょうね。とはいえ、遺言書があるわけではなかったので、いずれにしても遺産は均等に5等分されることになります。

 さて、1戸しかない戸建てをどうやって5等分すればよいのでしょう。姉たちは口をそろえてこう言います。兄がこの家を自分のものにするのなら、不動産価格に見合った金銭を支払えと。つまり、代償分割といって兄が不動産を相続するかわりに、他の兄弟の相続分は金銭で支払うという遺産分割の方法ですね。生まれ育った実家は残しておきたいけれど遺産はちゃっかり相続したいというわけです。

 古くて小さいながら、都内の一等地にある戸建て住宅ですし、兄は普通のサラリーマンだった人です。不動産価格の5分の4を金銭で支払うなどとてもできません。結局話は平行線のままとなり、最終的には裁判で争うことになりました。

 それでどうなったかというと、結果はとてもシンプルです。遺言書がないうえに、相続人はそれぞれ自分の相続分を主張している以上、この戸建てを5等分するしかないわけですから。

 こんな場合の分割方法は次の3つです。1つ目は、もともと3人の姉が主張していた代償分割という方法。2つ目は共有分割といって、この戸建て住宅の名義を5人の共有名義にする方法。そして3つ目は換価分割といって、不動産を売却したお金を5人で均等に分ける方法です。

 1つ目の代償分割は、兄の経済状況を見れば難しいということはすでにわかっています。また2つ目の共有分割については、5人の共有名義にしたところでとても使い勝手が悪く、さらに相続が発生しようものならとてもややこしい物件となってしまうため非現実的です。ということは、最後に残った換価分割という方法で遺産分割するしかないわけです。

 結局は、生まれ育った家を売り払って得たお金を、シンプルに5人で分けておしまいというわけです。心情が絡み裁判にまでなりましたが、このケースについては、そもそもこの方法しかないというシンプルなケースです。

 余談ですが、物件を売り払った後、本当は生まれ育った家を残したかったという想いが、兄弟5人のそれぞれの心の中に残ったようです。でも兄嫁にしてみれば、古い家を売って得たお金で新しいマンションに移り住むことができて、万々歳だったのではないでしょうか。

 

 
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