■書名:大田舎・東京 都バスから見つけた日本

■著者:古市憲寿

■出版:文藝春秋

■定価:1,400円+税

東京都内で、駅近の物件に住んでいると、バスに乗る機会は少ない。

商業施設や繁華街は鉄道の駅を中心に発展しており、街の開発も駅が起点になる。家を出たら駅まで出かけ、電車に乗って職場や学校に通う。ドラマにも小説にも描かれる都会の生活だ。


古市憲寿著『大田舎・東京』は、おしゃれで都会な「表向きの東京」ではなく、都バスの車窓から見える「生活の東京」の実情を明らかにしている。


確かに、東京で暮らす1,300万人全てが、都会的な生活を送っているわけではない。むしろバスを使って通学・通院をしたり、介護施設に訪れたりと、他の街と変わらない「生活」をしている人々がほとんどなのだ。


本書は、「
東京のほとんどが田舎である」という仮説から全てがスタートする。

実際に都バスから見える風景を見て、「「ビルが立ち並び、群衆が行き交う大都会東京」なんてのは、東京の本当に一面に過ぎないことが、改めて確認できる。」と述べている。


秋26 葛西駅前―秋葉原駅前「東京はどこから『東京』なるのか?」
の章では、葛西駅と秋葉原駅を結ぶ都バスに乗り、東京はどこから「東京」になるのか、について記されている。この東京とは、「表向きの東京」のことだろう。


葛西駅や北砂、白河あたりはまだ「東京」ではないらしい。

清洲橋を渡り、中央区に入った途端に成城石井が目に飛び込んで来た。このあたりから一気に「東京」感が増す。」とあった。


実際に、その「東京」の境目の区間を乗ってみた。

秋26「白河二丁目」停留所からバスに乗る。


白河二丁目の停留所 (撮影=リビンマガジン編集部)


東京メトロ半蔵門線「清澄白河」駅から地上に上がるとすぐにある停留所だ。

ここ数年で、清澄白河はオシャレな街になったと言われる。かつての木場や倉庫として使われていた建物を利用した海外のコーヒーショップや、スイーツショップが街のいたるところにある。雑誌やテレビの情報番組で見かけそうな店だ。

しかし、路地に入るとまだまだ下町だ。道に絵をかいて遊ぶ子供たちがいたりと、昭和の匂いさえ残した風景がそこにはある。

バスは、清洲橋通りを西に進む。

清澄庭園のそばを、緩く右に曲がると清洲橋だ。

清洲橋は隅田川に架かる全長186mの橋で、江東区と中央区を繋いでいる。

江東区と中央区を繋ぐ清洲橋 (画像=リビンマガジン編集部)

橋を渡ると、オフィスビルが建ち、本書のとおり一気に都会の雰囲気になった。乗車してわずか5分ほどで、明らかに街の空気が変わった。駅を中心にした都会の街に入ったのがよくわかる。

この章は「東京の面積比率で考えてみると、高層ビルの立ち並ぶ「東京」よりも、葛西のような東京のほうが広い。」と締めくくられている。確かに、都バスから見えた街並みは、大都会ではなく、生活者の街だった。

本書では100系統のバスの乗車記が収められている。

どの系統も、これまでの東京のイメージを変える景色を見せてくれている。

本書を片手に都バスに乗れば、新たな東京に出会えるかもしれない。

(敬称略)

 
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