「Sensuous City[官能都市]2025」

撮影=取材班

LIFULL(東京都千代田区)の社内シンクタンク「LIFULL HOME’S総研」が10年ぶりとなる「Sensuous City[官能都市]2025」を発表した。人々が都市に対して感じる魅力を数値化した「センシュアス度」ランキングで、東京都心部や横浜市などの大都市中心エリアが上位を独占する結果となった。一方、2015年の前回調査で上位にランクインしていた金沢市や武蔵野市などの地方都市は大幅に順位を下げており、都市魅力の構造に変化が生じていることが明らかになった。

画像=プレスリリースより

今回の調査では、1位が東京都千代田区・中央区(630.5点)、2位が神奈川県横浜市西区(588.6点)、3位が東京都豊島区(551.8点)となり、トップ10のすべてを東京23区、横浜市、大阪市、福岡市の各エリアが占めた。特に横浜市の中心エリアや東京23区の中心部が順位を大きく上げている。

対照的に、前回調査で8位だった金沢市は36位に、3位だった武蔵野市は39位まで順位を落とした。地方都市では20位台に宮崎市、松本市が入るものの、前回調査時のような上位進出は見られなかった。

調査結果の背景には、この10年間で起きた都市生活をめぐる大きな環境変化がある。特にコロナ禍により、テレワークが定着し、人々の生活パターンが自宅中心に変化。近所での買い物が増加した一方、映画館や劇場への外出、飲み会などは減少している。

また、全国的に小規模事業者の廃業・休業が増加しており、2024年のデータでは6万から7万件と過去最高を記録。特に人口30万人未満の都市では、「繁華街や商店施設が廃れてきた」と感じる住民の割合が44.3%に達し、東京23区の23.9%を大きく上回っている。

画像=プレスリリースより

センシュアス度の高い都市に共通する特徴として、個人経営の個性的な飲食店の多さが最も強い相関を示した。また、オープンカフェやマルシェが出店できるスペース、カフェ併設の公園など、公共空間の充実も重要な要素となっている。

興味深いのは、上位都市では地元産食材を使った料理や地酒・地ビールを楽しむ「ローカルフード体験」が大幅に増加していることだ。2015年調査では大都市の弱点とされていた項目が改善されており、研究チームは「都心の逆襲」と分析している。

画像=プレスリリースより

今回の調査では新たに「ナラティブ」(都市における個人の物語性)という概念を導入。センシュアスな都市体験がナラティブを育み、それが都市の幸福度やシビックプライド(都市への誇り)を高めるという循環構造が明らかになった。分析によると、都市の機能性(利便性・安全性)は住民の満足度には寄与するが、生きがいや充実感といった深い幸福感には、センシュアスな体験の方がより強く影響することが判明した。

順位上昇した都市に共通するのは、再開発と並行してエリアマネジメント活動が活発に行われていることだ。豊島区や横浜市西区、千代田区・中央区などでは、公共空間を活用したイベントやまちづくり活動が継続的に実施されている。一方、再開発は行われたものの、継続的なまちづくり活動が不十分な地域では順位を下げる傾向が見られた。

LIFULL HOME'S総研・島原万丈所長

LIFULL HOME’S総研・島原万丈所長 撮影=取材班

LIFULL HOME’S総研の島原万丈所長は、地方都市での再開発について「非常にリスキー」と私見を述べた。デベロッパーが長期的に関わらない場合、個人経営店の衰退やエリアマネジメント活動の停滞を招く可能性があるとし、慎重なアプローチの必要性を訴えた。

今回の調査結果は、人口減少と高齢化が進む中で、都市の魅力をいかに維持・向上させるかという重要な課題を提起している。単なる機能性の追求だけでなく、住民が日々の生活で感じる豊かな体験をいかに創出するかが、これからの都市づくりの鍵となりそうだ。調査は2025年6月に全国47都道府県の167都市・エリアを対象に実施され、4万人超から有効回答を得た。

 
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