全国調査で明らかに。当事者への相談対応「当事者頼み」の構造

全国の不動産関連事業者665社を対象とした調査で、LGBTQ+当事者への対応状況に企業間で大きな格差があることが明らかになった。一般社団法人住宅みらい会議が24日に東京都内で開催したイベントで調査結果を発表した。

撮影=取材班

調査は今年5月16日から20日にかけて実施されたもので、回答者の属性は当事者が16.8%、非当事者が79.7%だった。

画像=プレスリリースより

注目したのはLGBTQ+当事者からの相談対応における格差だ。当事者の社員が相談を受けた割合は70.5%に達した一方、非当事者の社員では17%にとどまった。住宅みらい会議代表理事でIRIS(東京都新宿区)代表取締役CEOの須藤啓光氏は「当事者が相談する際、当事者の社員を頼らざるを得ない構造が明確に現れている」と指摘した。

企業のLGBTQ+当事者に向けた取り組み状況については、差別禁止の明文化(17%)や、トイレなどの施設配慮(14.4%)などがある一方で、47.7%の企業が「いずれの取り組みも実施していない」と回答、業界全体での対応の遅れが浮き彫りとなった。

積水ハウス ダイバーシティ推進部 祝原英美氏

積水ハウス ダイバーシティ推進部 祝原英美氏 撮影=取材班

一方で、先進的な取り組みを進める企業の事例も紹介された。積水ハウス(大阪市)ダイバーシティ推進部の祝原英美氏は「2014年から人権研修でLGBTQを取り上げ、現在228名が参加するアライ(※)ネットワークを構築している。6月に東京で開催されたプライドパレードへの参加は上限まで達し、参加をお断りするほど社内の意識が高まっている」と報告した。

※=アライ(Ally):LGBTQ+などの性的マイノリティを理解し支援する人々

積水ハウス不動産ホールディングス 賃貸企画室長 田中龍史氏

積水ハウス不動産ホールディングス 賃貸企画室長 田中龍史氏 撮影=取材班

積水ハウス不動産ホールディングス(大阪市)賃貸企画室長の田中龍史氏は、実際の現場対応の重要性を強調した。「性別や続柄を必須としないといった書式に変更しても、現場での対応が伴わなければ意味がない。形を整えるだけでなく、意識統一のための継続的な研修が不可欠だ」として、全国3,000店舗のシャーメゾンショップ加盟店に対する継続的な研修実施を報告した。

また、同社が管理する70万室のうち65万室がサブリース契約であることから、貸主としてLGBTQフレンドリー物件として提供していることも紹介された。田中氏は「オーナー様からの反発は皆無。むしろ自然に受け入れられている」と語る。

LIFULL FRIENDLY DOOR事業責任者 龔軼群氏

LIFULL FRIENDLY DOOR事業責任者 龔軼群氏 撮影=取材班

LIFULL(東京都千代田区)FRIENDLY DOOR事業責任者の龔軼群(キョウイグン)氏は、物件選択肢の格差について「全国の2人入居可能な賃貸物件は55万件あるが、ルームシェア可能物件は5万件のみ。同性カップルが通常の2人入居として受け入れられれば、選択肢は10倍に広がる」と具体的な数値から指摘する。

大和ハウス工業 人事部担当課長 長谷川満子氏

大和ハウス工業 人事部担当課長 長谷川満子氏 撮影=取材班

大和ハウス工業(大阪市)人事部担当課長の長谷川満子氏は「東京オリンピックをきっかけに本格的な取り組みを開始した。全社員アンケートでは1万1千人以上が回答し、実際に困っている事例も可視化された」と同社の取り組みを紹介した。

調査では働きやすさについても興味深い結果が出た。D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の取り組みが進んでいる企業ほど働きやすいと感じる割合が高くなる傾向が明らかになり、特にLGBTQ+当事者でこの傾向は顕著だった。

須藤氏は自身の体験を交えながら、新たな課題についても言及した。「首都圏では選択肢が増えつつあるが、地域格差は明確に存在する」として、豊島区で一戸建てを購入した際の近隣住民とのやり取りを紹介。「差別したいのではなく、長い付き合いになる隣人として不安があるのだろう。町内会に参加し、地域とのコミュニケーションを積極的に取ることで理解を深めている」と語った。

画像=プレスリリースより

同性カップルの入居許可については、「全ての物件で許可している」と答えた企業は30.2%にとどまった。「ルームシェア可能な物件のみ許可」が24.5%、「パートナーシップ証明など関係性証明がある場合のみ許可」が21.1%、「全ての物件で許可していない」が12.6%となった。

登壇者らは今後の展望について、業界全体での連携の必要性を強調。祝原氏は「一企業でできることは限られている。他社の事例を学び、横の連携を深めながら業界全体を変えていく必要がある」と述べた。

住宅みらい会議代表理事・IRIS 代表取締役CEO 須藤啓光氏

住宅みらい会議代表理事・IRIS 代表取締役CEO 須藤啓光氏 撮影=取材班

須藤氏は「マイノリティを特別扱いするのではなく、あくまでもフェアな社会を実現したい。最終的にはLGBTQフレンドリーというカテゴリー自体をなくし、地域格差の解消も含め、業界全体での取り組みが必要だ」と今後の目標を示した。

 
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