築160年古民家の構造材を再活用 小田急不動産が神奈川県開成町にモデルハウスオープン

空き家問題解決と循環型社会実現を目指す「KATARITSUGIプロジェクト」始動
小田急不動産(東京都渋谷区)は5月31日の「古材の日」に、古民家の良質な木材を新築住宅に活用する「KATARITSUGIプロジェクト」のモデルハウスを神奈川県足柄上郡開成町にオープンした。築約160年の古民家(新潟県阿賀町)から取り出した構造材を大梁に使用した平屋建ての住宅で、全国で増加する空き家問題の解決策として注目される取り組みだ。

撮影=取材班
眠れる資産を次世代へ
プロジェクトを推進する同社仲介事業本部・グループリーダーの山尾正尭氏は、30日に開催されたメディア向け内覧会で「全国には900万戸の空き家があると言われており、そのうち100万戸程度が戦前からずっと受け継がれてきたもの。これは一口の空き家というよりも、眠れる資産として次の世代に残していくことが重要」と語った。
同社は一般社団法人全国古民家再生協会と連携し、古民家所有者から古材の提供を受け、それを用いた住宅を建設するスキームを構築。小田急不動産が土地の仲介や販売を行った顧客で古材を活用した住宅を希望する場合、同協会の事業者が顧客と建築請負契約を締結する仕組みとなっている。
160年の歴史を受け継ぐ構造材
今回のモデルハウスに使用された古材は、新潟県阿賀町の中野沢地区にあった築160年の茅葺き古民家から調達された。解体作業を担当した同協会理事で自然派ライフ住宅設計(新潟市)・代表取締役の大沼勝志氏は「60坪の建物で、18畳の茶の間には大きな梁が見える素晴らしい住宅でした。当時は機械がないため、雪が降っている時に人間の手で材料を運び、川を使って流して現地まで持ってきて加工した建物。9メートルの材料が普通に使われており、今でも10tトラックでやっと運べる長さです」と説明した。
同協会・専門員の井上幸一氏は木材の特性について「木というのは切られてから800年かけて強くなり、それから劣化を始める。今回は160年ですから、実はこれから強度が増すんです。それが今まで解体されて捨てられてきました」と古材活用の意義を強調した。
伝統技術の継承も課題
プロジェクトは古材活用だけでなく、大工技術の継承という側面も持つ。大沼氏は「実際、若手の大工さんがすごくかわいそうで、学校を出て大工を目指しても、ほとんどが辞めていく。つまらないんです。誰でもできる仕事しかさせてもらえないから。ものづくりが好きな人たちは、レベルを上げてその技術を進めていきたい。なるべく難しいことを若手に教える機会を作っていきたい」と技術継承への思いを語った。

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高性能と環境配慮を両立
モデルハウスは木造平屋建て(建築基準法上は2階建て)で、建物面積130.0平方メートル。古材の魅力を活かしながら、耐震等級2、ZEH基準の断熱・省エネ性能を確保している。
リビングダイニングには新潟から持参した古材約20本がダイナミックに配置され、天井高は5メートルを超える。床材には杉の浮造り無垢フローリングを採用し、建具も杉の無垢材でオリジナル製作された。
環境面では、使用した木材が蓄積した炭素量は20.5トンで、杉の木41本分に相当する。同社は「CO2排出抑制、循環型社会の実現にも資する取り組み」として位置づけている。
新たなライフスタイル提案
同社では初年度5戸の販売を目標としており、坪単価は約140万円(参考プラン)。山尾氏は「小田急沿線の自然環境が良い場所、例えば鎌倉や箱根などで土地を見つけて古民家を移築したい。エシカル消費に共感する層などをターゲットに提案していきたい」としている。
各古民家には「家史(いえし)」と呼ばれるストーリーブックが付属し、移築元となった古民家の歴史や文化、成り立ちを記録。「家の物語を未来へと語り継ぐ」ことで、単なる住宅以上の価値を提供する。
地方創生の観点からも期待される同プロジェクト。今回、古材提供のきっかけを作った阿賀町まちづくり(阿賀町)・代表取締役の高橋眞也氏は「阿賀町のような課題先進地で始まり、それが日本中に広がっていけば、いろんな思いが繋がり、空き家の課題解決の一つになる」と今後の展開に期待を寄せた。

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