日経新聞を読んでいない君でもゴールド(金)の価格が爆騰してその後急落したニュースは耳にしていると思います。このコラムでも5年前に金のことを書きましたが、その時よりも金の価格は大きく値上がりしています。なぜ、金なのか。あらためて説明したいと思います。

金とドル紙幣

画像=PIXTA

1027日時点の金の価格は、1トロイオンス=4000ドル(約61万円)、日本円では1グラム=22000円くらいの水準です。円換算した金価格は為替の影響を受けるので(円安になると円建ての金価格が上がる)、ここではドルベースで見ていくことにしましょう。

値上がりのニュースが続いたと思ったら、暴落したりして、目先の金相場は荒れ模様ですが、そもそも長い目で見てみると、金価格はこの数年、右肩上がりで上昇してきました。20201月と比較すると、価格は2.5倍になっています。同じ期間の日経平均株価は2.1倍、S&P5002.1倍なので、株式よりも勢いよく値上がりしています。

なぜ金が上がっているのか。よく聞くのは、戦争など世界情勢が不安定になった時に金が買われるという「有事の金」という言葉です。中東やウクライナでの戦争が続く今は、まさに有事。金が買われやすい状況だと言えます。もう一つはインフレ。モノの価格が値上がりすると、通貨の価値が下がります。そんな時にも金に世界のマネーが集まります。

これまでに掘り出された金は、オリンピック公式競技用プール約4杯分と言われています。現在も世界各地で金の採掘は続いていますが、年間3000トン前後の供給がありますが、これを増やすのは難しいと言われています。実は、金の需要のうち、電子機器などに使われる工業用は全体の10%未満で、宝飾品が40%台、残りは投資など資産として持つために買われています。原油やコメと違って、金がないと生活に困るわけではありません。しかし、希少ゆえに価値が保たれているから、世界の先行きやお金そのものが信じられなくなった時、最後に頼るところが金、というわけです。

さて、もう少し大きな目線で見てみると、金にマネーが集まる裏側では、マネーの「アメリカ離れ」「米ドル離れ」が進んでいるとも言えます。アメリカは今、巨額の借金を抱えています。国の債務は40兆ドルを超え、利払いの負担も増える一方です。その結果、かつて「世界一安全」と言われたアメリカ国債やドルへの信頼が、少しずつ揺らいでいます。

そうした中で、ドル建ての資産を減らし、代わりに金を持とうとする国や投資家が増えています。特に注目すべきは、各国の中央銀行です。ここ数年、中央銀行による金の購入量は過去最大の水準に達しています。

背景には、単なる「ドル離れ」だけでなく、地政学的な事情もあります。ロシアがウクライナ侵攻後に経済制裁を受け、ドル建ての資産を凍結されたことを見て、「ドルで持っているとリスクがある」と感じた国が増えたのです。ロシアや、その周辺・友好国を中心に、制裁の影響を受けにくい資産として金を買い増す動きが広がっています。

金はどこの国の通貨でもなく、誰の信用にも依存しない資産です。だからこそ、政治や通貨のリスクが高まる時代に、各国が「最後に頼れる資産」として金を選んでいるのです。

アメリカの政治もまた、不確実さを増しています。トランプ大統領がこれから何をやらかすのか、誰にもわかりません。外交や財政の方向が大きく変われば、世界の市場は敏感に反応します。そんな「読めないアメリカ」への不安も、金を買う動きを後押ししているように見えます。

こうしてみてみると、ものすごく大きな歴史の流れの中で金に世界のマネーが集まっていることがわかります。「金の価格は今後、大きく下がることはないのでは」とみている専門家が多いのはこのためです。

この世界的なゴールドブームを見て、金に投資をしてみようと思う人も多いと思います。金投資は、バーやコインなどの現物を買う方法、純金積立と言われる少しずつ積み立てる買い方などの従来からの方法のほかに、近年は金価格に連動するETF(上場投資信託)や投資信託も選択肢になっています。世界的な金の価格に連動するので、金を持っているのと同じ効果が得られる金融商品です。昨今の金の値上がりを受けて、東証にも金のETFが次々と登場しており、しかも信託報酬がどんどん下がっています。これまでブラックロックの「iシェアーズ ゴールドETF」が信託報酬0.20%で最も低かったのですが、ETF専門会社のグローバルXが信託報酬0.177496%の「グローバルX ゴールドETF」を9月に上場させました。さらに11月には、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントが信託報酬0.17%の「ステート・ストリート・スパイダー ゴールドETF」を東証に上場させます。金価格の値上がりの余波は、こんなところにも現れているのです。

 
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