皆さんこんにちは。日経新聞を読んでいなくても、船井電機、ミュゼプラチナム、秀和システムを巡る経営トラブルのニュースが続いているのは知っていると思います。家電メーカー、脱毛サロン、ビジネス書の出版社という、本来直接的に関わりのないはずの企業の経営が連鎖的に追い込まれていく異例の連鎖破綻。そろそろ進展を追えなくなっている人も多いと思うので、最低限知っておくべき事柄を整理してみます。

秀和システムの書籍

秀和システムの書籍 撮影=取材班

発端は、事業承継のためのM&Aでした。船井電機は創業者の船井哲良氏が一代で築いた家電メーカーです。「テレビデオ」や液晶テレビなどをヒットさせ、北米を中心とした海外で成功を収めました。風向きが変わったのは、創業の哲良氏が2017年に死去してからです。船井家の長男で医師の哲雄氏は、2021年、出版社の秀和システムに船井電機を売却します。

秀和システムは「はじめての」などのシリーズで知られるビジネス本に強い出版社です。同社を率いる上田智一社長は、かつてアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)に在籍していたコンサル出身者で、投資会社を設立して独立した後、MAにより秀和システムの経営を手掛けていました。いわば、経営手腕を買われて、船井電機の経営を託されたわけです。

海外で成功を収めていた船井電機ですが、実はこの20年ほどは業績が低迷していました。海外メーカーとの厳しい競争に苦戦し、2006年以降は最終赤字に落ち込む年が増え、売上高も最盛期だった2006年度の約4000億円から、2020年度には約800億円まで落ち込んでいました。船井電機は上田氏という新たな経営者のもとで経営再建に立ち向かうはずでした。

 しかし、上田氏が打った手は事業再建とは別方向の戦略を取ったように見えるものでした。20234月、船井電機は脱毛サロン「ミュゼプラチナム」を買収します。家電メーカーが脱毛サロンを買収する理由について、上田氏は東洋経済オンラインの取材に「家電事業の損失を補うためだった」と述べています。粗利の高い美容分野に、船井電機再生の可能性を見出していたそうです。しかし、脱毛サロンは医療脱毛の低価格化による競争環境の悪化、過大な広告宣伝費の負担などにより、破綻が相次いでいます。これまでにも銀座カラーやアリシアクリニックなどが経営破綻に追い込まれています。ミュゼも、こうした環境下で業績を圧迫されていたと考えられます。

さらに、消費者庁がステルスマーケティング広告への規制を導入したことが追い打ちをかけ、ミュゼの経営はさらに悪化。結局、20244月、割引クーポンサービスを運営するKOCJAPANに、船井電機の債務保証を引き継ぐことを条件に、ミュゼを100万円で売却しました。船井電機の経営も急速に悪化し、202410月、ついに準自己破産を申請。500人以上の従業員が即日解雇されるという深刻な事態に発展しました。

報道によると、秀和システムによる買収後、船井電機から300億円規模の資金が流出したと言われています。その内の180億円は、秀和システムが船井電機を買収する際に行った借り入れの担保としてりそな銀行が差し押さえた分です。この構図は、秀和システムは船井電機の資産を担保にお金を借りて、その借入金で船井電機を買収し、返済できなかったため、銀行が差し押さえたということになります。残りのお金は借金の返済や、関連会社への貸し付けに使われたそうです。

実はここまでの間に船井総研の取締役が大幅に刷新されたり、その中に大物政治家、原田義昭元環境相がいたり、船井電機の株がファンドに1円で売却されたり……と多くの関係者が次々に登場し、経緯は複雑さを増していきました。最新のニュースは、20257月、出版社の秀和システムが法的整理の手続きを開始したということでしょう。

この一連の問題は、事業再編の過程で生じた問題にとどまらず、買収先企業の資産を流出させ、結果として本業を立て直す余地が失われるような構造的リスクを孕んでいます。実際、こうしたM&Aにおいて被害を被るのは従業員や取引先、そして顧客です。今後、こうしたトラブルを防ぐためにも、仲介を担う専門家や金融機関によるチェック体制の強化が強く求められます。

最終的に誰が得をしたのかは不明です。上田氏は一部報道に対して「財務顧問に騙された」と語っており、真相の解明はこれからと言えるでしょう。

 
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