日経新聞を読まない君でも、アメリカのトランプ大統領が関税を大幅に引き上げようとしているのは知っていますよね。関税率を引き上げるターゲットは、中国などアメリカと対立する国に限りません。日本や欧州、南米などアメリカの仲間を含む全方位に高い関税をふっかけようとしています。連日報道されていますが、関税の話はややこしくて話について行くのが難しいですよね。そこで今回は、アメリカの関税率が上がると何が問題なのか、日本の私たちにどんな影響があるのか。5つの疑問に絞って、基本的なポイントを押さえていきます。

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なぜ関税率を引き上げるの?
目的は「国内産業の保護」です。トランプ氏の支持層として知られるアメリカ東部や中西部にまたがる「ラストベルト(さびた工業地帯)」はかつて鉄鋼や自動車産業で栄えましたが、中国などアジアの国々から安い製品が出てきたことで競争力が低下し、産業は衰退、この地域で働く多くの人が失業しました。そんな経験がある人々にとって、トランプ関税は自分たちの仕事を奪った国への報復であり、産業復活のための対策でもあるわけです。
なぜ関税を引き上げると国内産業が復活するの?
仕組みはこうです。関税とは「輸入品にかかる税金」で、輸入する企業が支払います。例えば、関税が25%だとすると、100万円の品物を輸入した場合、25万円の関税がかかるので、輸入企業は125万円を支払います。関税率が引き上がった場合は、企業がコストを吸収するか、販売価格に転嫁するかします。つまり、関税が上がると、輸入品はアメリカ国内で価格競争力を失う可能性が高く、消費者は国産品を選ぶようになり、国内での生産や雇用が後押しされる、という流れです。国内産業保護のための関税は特殊なものではなく、日本もコメ(400%~700%くらい)やこんにゃく芋(40%)に高い関税をかけて農業を守っています。ただし、産業はただ守れば育つわけではなく、歪みが生じて社会的な問題になることもあります。日本のコメ政策を見てみればよくわかりますよね。
関税率が上がるとアメリカの景気はどうなる?
短期的にはマイナスの影響が大きいと見られています。アメリカが関税を引き上げると、中国などがアメリカに報復関税を課し、アメリカの輸出が減って企業の収益が下がります。さらに、高い関税によって輸入品の価格が上がると、アメリカ国内の物価が上昇し、市民が買い控えをして消費が冷え込みます。輸出の縮小と消費減速のダブルパンチですね。本貿易振興機構(ジェトロ)のアジア経済研究所は、トランプ関税が発動するとアメリカの2027年のGDP(国内総生産)は2.5%減少すると試算しています。
一方で、中長期的には関税によって保護された国内の鉄鋼や自動車をはじめとした製造業が復活に向かうと見られるので、上手に産業を育てることができればポジティブな作用もありそうです。
結局、関税はどれくらい上がるの?
トランプ関税の仕組みって実は複雑なので、ざっくりと押さえておきたいところだけをまとめますね。今、議論されている関税の種類は主に3つです。
1つは一律関税。全ての国からの輸入品に一律で10%の関税を課します。4月5日に発動済みです。
2つ目は相互関税。貿易赤字が大きい国に対して関税を上乗せするもので、国によって税率は10~60%まで幅広く、日本は14%です。こちらは7月上旬まで90日間にわたって発動を一時停止する「集中交渉期間」に入っています。トランプ政権と交渉の余地があるのがこの相互関税で、ニュース等でよく話題に登っています。
3つ目は、品目別関税。自動車や鉄鋼・アルミなどで、25%の関税をかけます。かつてアメリカが強かったけれど衰退してしまった産業で、産業保護の意図が色濃く出ている部分です。こちらも基本的にすでに発動済みです。
ちなみに、アメリカの関税引き上げに対して、多くの国が関税率を引き上げる報復措置に出ようとしています。中国の話題が多いですが、EUやカナダなども報復措置に言及していて、交渉でアメリカから良い条件を引き出そうとしています。
日本への影響は?
いくつかの産業はアメリカへの輸出で打撃を受けそうです。みずほリサーチ&テクノロジーズの試算によると、自動車産業や、電気・電子機器、輸送用機器などの分野で輸出がマイナスになる見通しで、トランプ関税が日本のGDP(国内総生産)に与える影響はマイナス0.8%の見通しです。
ちなみにみなさんが働く不動産業のように輸出に直接関係しない内需型の産業は、短期的な影響は限定的です。ただ、景気全体が落ち込めば、住宅需要の低下や投資マインドの冷え込みなどを通じて不動産市場にも影響が及びます。世界的な景気後退や株価下落などがあれば、外国人投資家の動向にも影響するでしょう。トランプ大統領はアメリカの中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)に利下げするよう圧力をかけるなど、株式市場にネガティブな影響が出ることを懸念しているようですが、ここから先、何が起きるか予測ができません。金融市場や不動産市場ではリスクへの警戒が続くと見られます。