日経新聞を読んでいない君でも、中居正広さんの問題に端を発するフジテレビのゴタゴタについては知っていますよね。問題は社内コンプライアンスの話にとどまらず、フジテレビの経営そのものを揺るがす事態へと発展し、大物投資家たちを巻き込む騒動にまで拡大しています。

撮影=取材班
そんな中、今メディア界隈をにぎわせているのが、SBIホールディングス会長兼社長の北尾吉孝氏です。金融界では言わずと知れたレジェンドですが、日経新聞を読まない君たちには、あまり馴染みがないかもしれません。40代以上の人なら、「ああ、そんな人いたね」と20年ぶりに名前を聞いて驚いているかもしれませんね。今回は、フジテレビ問題で再び脚光を浴びるこの金融界の大物、北尾氏の動向を追っていきます。
北尾氏が率いるSBIグループは、証券、銀行、保険、資産運用などを手がける巨大企業です。特に若い世代には、ネット証券でおなじみでしょう。これだけのコングロマリットを一代で築き上げた北尾氏。彼のキャリアは、バリバリの証券マンからスタートしました。野村證券時代、担当したのがソフトバンクの株式上場。これをきっかけに44歳でソフトバンクに移り、孫正義氏の右腕として辣腕をふるいます。1990年代、ソフトバンクグループは投資部門としてソフトバンク・インベストメント(現在のSBIインベストメント)を設立し、北尾氏が代表に就任。しかし2000年代に入ると、インターネット事業の投資が膨らんだソフトバンクは、資金確保のためソフトバンク・インベストメント株を売却。こうして、資本関係が切れたSBIは独立し、北尾氏の手で本格的な金融グループへと成長を遂げていきます。ちなみに「SBI」という社名は、もともと「ソフトバンク・インベストメント」の略でしたが、今では「Strategic Business Innovator(戦略的事業革新者)」を意味することになっています。豆知識です。
M&Aを武器に、SBIはネット時代の金融パイオニアとして存在感を強めます。ネット証券事業だけでなく、地銀再編にも乗り出し、2021年には新生銀行をTOB(株式公開買い付け)で子会社化。北尾氏は、地銀連携を進めながら「第4のメガバンク」構想を打ち出しています。
金融とインターネットを掛け合わせてきた北尾氏。もうひとつ彼にとって縁深いキーワードがあります。それが「メディア」です。2005年、ライブドアの堀江貴文社長(当時)がフジテレビ買収を仕掛けた時、フジ側の「ホワイトナイト(白馬の騎士)」として登場したのが北尾氏でした。SBIがフジテレビ株を買い支え、ライブドアによる買収を阻止したんですよね。つまり、北尾氏はフジテレビを“守る側”だったわけです。
それから20年。今度は立場が逆転しました。北尾氏は、中居正広さんの問題などに端を発した一連のフジテレビの混乱を受け、第三者委員会の報告書を読み込み、厳しくフジを批判。「20年前の判断は珍しく外れていた」と悔やむような発言も会見で飛び出しました。
現在、北尾氏はフジテレビに改革を迫るべく、グループ会社を通じてフジ・メディア・ホールディングス(HD)の株式を買い増し中。SBIが出資する資産運用会社、レオス・キャピタルワークスは、2025年2月時点でフジ・メディアHD株の5.12%を保有する大株主に名を連ねています。他にも、あの「村上ファンド」の村上世彰氏の娘が率いる投資会社が、フジ株を買い進め、今や筆頭株主に。さらには堀江氏本人も、フジ株を保有していることを明かしています。
北尾氏、村上氏、堀江氏。20年前の因縁の顔ぶれがフジの株主として再集結する6月の定時株主総会では、何らかの株主提案が飛び出す可能性が高まっています。
メディアとの縁という意味では、北尾氏の祖父が大阪で朝日新聞の販売店を営んでいたことも有名な話。最近では、メディア関係者の間で、「うちも経営きついし、SBIに買ってもらえるんじゃないか?」なんて、半分本気、半分冗談めいた声も聞こえてきます。もしかしたら、フジテレビ問題を最も気にかけているのは、オールドメディアの人たち自身なのかもしれません。