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みんなマンションの話題は好きですよね。日経新聞を読んでいない君でも、国立市の完成間近のマンションを解体する話題については知っているでしょう。出来上がったマンションをすぐに壊してしまう。意味不明ですよね。今回はその国立市のマンションの騒動について解説します。

「グランドメゾン国立富士見通り」撮影=リビンマガジンBiz取材班

今回のマンションは、大手ハウスメーカーの積水ハウスが手がけた「グランドメゾン国立富士見通り」。JR国立駅から伸びる「富士見通り」という通り沿いにあります。駅からの所要時間は10分。10階建ての鉄筋コンクリート造、全18戸の小ぶりな分譲マンションですが、周囲が閑静な住宅地なので、現地に行くとそこそこ目立ちます。

マンションは7月に引き渡しの予定でしたが、その直前の6月3日に積水ハウスが解体を決めました。異例すぎる解体問題。どう考えればいいのか、3つのポイントに整理してみました。

一つ目は景観問題です。このマンションは、通りから見えるはずの富士山をこの建物が隠してしまうと以前から指摘されていました。「富士見通り」の名前の通り、駅を背にこの通りの正面に立つと、道の先に富士山が見えるそうです。X(旧Twitter)などのSNSで写真を見つけることができますが、通りの向こうに綺麗な富士山が見えるはずが、積水のマンションの上層階によって富士山が隠れてしまっています。

この問題は開発の初期段階から指摘されていました。2021年に積水ハウスがマンションの計画を発表した当時、建物の高さや景観への影響を危惧する声が住民から上がり、周辺住民から多数の意見書が提出されていました。こうした声を受けて、積水ハウスは2度ほど建物の高さを低くする対応をしています。当初は地上11階建て、高さ36メートル、総戸数20戸を計画していましたが、2022年の初めに10階建て、高さ33.12m、総戸数18戸へと階数を1つ減らし、さらに22年の秋頃には10階建て、高さ30.95m、総戸数18戸へと見直しています。階数は変わらず高さだけ低くなっているので、階高を縮めたということでしょう。バルコニーの一部は石や窓の縮小などの対応もしています。不動産業者の皆さんならよくわかると思いますが、販売戸数が減れば、単純に収益が悪化します。階高が低くなれば、居住性が悪くなるので販売に影響が出る可能性もあるかもしれません。デベロッパーとしては大きな譲歩をしたわけですが、これに対して住民はさらに建物を低くすることを要求しました。結局、両者の折り合いがつかないまま、22年11月、国立市はマンション事業の承認を下しました。

「グランドメゾン国立富士見通り」遠景 撮影=リビンマガジンBiz取材班

住民説明会やまちづくり審議会の記録では、住民側は通りからの富士山の眺めだけではなく、大きな建物がない、静かな住環境をとても重視していて、国立という住宅地のブランドに自信と誇りを持っていることがわかります。このマンションの土地にはもともと一戸建てがあったようで、低層の一軒家で視界の開けた場所だったところに10階建てのマンションに建つと、環境や眺望が変わってしまうことにも抵抗感があったように読み取れます。

二つ目のポイントは、積水ハウスの企業統治の問題です。積水ハウスのリリースや報道によると、今回の土壇場での解体の判断は、どうやら本社の上層部によるものであったようです。開発を担当したマンション事業部は、住民との議論を重ねて、2度にわたる高さの変更にも応じて、行政の許可も得て進めてきたという認識だった。しかし、最終的に本社の上層部の人がやってきて、一緒に再度検討したところ、「これだとやっぱりダメなのでは」ということで解体することになったというものです。積水が発表したリリースには「現況は景観に著しい影響があると言わざるを得ず、富士見通りからの眺望を優先するという判断に至り、本事業の中止を自主的に決定いたしました」とあります。

この状況で解体を決めるのは、施工不良でもない限り通常はないことです。理由が本当に景観だけだったのかは外部からはわかりません。ただ、2017年に発覚した五反田の「地面師」の問題を思い出すと、会社として何か構造的な問題があるのではと考えたくもなります。

五反田の地面師の問題は、用地取得にあたり、積水ハウス社員が土地所有者を名乗る偽の人物と売買契約を結び、50億円を越える損失を被ったというものでした。この時は、現場の担当者らが用地取得に向けて前のめりになるあまり、取引相手が詐欺師であることを見抜けなかったと言われています。積水ハウスのマンション事業は、何か、現場と上層部の判断がうまく噛み合っていない印象があります。

三つ目のポイントは、国立という住宅地の問題です。国立市では2002年、マンションが景観を害しているとして、竣工済みの建物もの上層部を撤去することを求めて、周辺住民がマンションデベロッパーの明和地所を訴えたことがありました。裁判は最終的に明和地所側の勝訴で終わっていますが、当時、この訴訟がメディアで大きく取り上げられたこともあり、明和地所はイメージダウンしてしまい、その後は販売に苦戦したという話もあります。

国立マンション訴訟の舞台となったマンション 撮影=リビンマガジンBiz取材班

合法的に建築できても、住民と揉めれば長期的な損害があるかもしれない。積水がそう考えたとしてもおかしくありません。しかし、建物が建ってからの判断と言うのはやはり遅すぎます。判断が遅すぎたことで、かえってさまざまな憶測を呼ぶことになったといえそうです。明和地所と積水ハウスの2つのケースから見えてくるのは、行政手続きを経ての開発でも、強気で主張を続ける国立市民の粘り強さです。「国立はマンション開発が難しい地域」と言う認識が業界の間でより強くなる可能性もあり、将来のまちづくりにも何らかの影響があるかもしれないとみられています。

 
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