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今回は、ネットなどで話題になっている「痩せ薬」の功罪について考えてみます。

画像=PIXTA

日経新聞を読んでいなくても、「痩せ薬」がブームになっていることを知っている人は多いでしょう。薬で簡単に体重が落とせるとあって、ダイエットを意識する人はどこかでこの薬の情報を目にしたことがあると思います。この痩せ薬、いわゆる違法なドラッグなどではなく、元々は大手製薬会社が開発した糖尿病の治療薬なのですが、体重減少効果が話題になり、治療目的以外のルートで入手する人が急増。世界中で一種の「ブーム」になっています。しかし、目的外仕様が増えすぎたために、本来、治療のために必要な患者さんに届かないという事態も発生。メーカーや医師会が注意喚起する異例の事態に発展しています。この痩せ薬騒動とは何なのか、みてみましょう。

「痩せ薬」「肥満治療薬」「GLP1ダイエット」・・・今、ネットで検索するとダイエット薬の情報がずらりと並びます。公的医療保険が適用されない美容目的の自由診療クリニックでも入手可能な薬で、オンライン診療を使えば自宅にいながら手に入れることもできます。紹介サイトには「食事制限不要」「1日1錠だけ」と魅力的な謳い文句が並んでいます。ネットで少し調べて見ると、1カ月数万円から購入可能なようです。

ダイエット薬と呼ばれているのは、「GLP-1(グルカゴン様ペプチド1)受容体作用薬」という薬です。GLP-1は小腸から分泌されるホルモンで、インスリンの分泌を促進する働きがあります。糖尿病(2型糖尿病)はインスリンが出にくくなったり、効きにくくなったりする病気なので、「GLP-1のような働きをする薬を作れば、糖尿病の治療薬になるのでは? 」ということで開発された薬でした。2000年代に入り、デンマークのノボ・ノルディスクや米国のイーライ・リリーなど、世界の製薬大手が糖尿病の治療薬として製品化してきました。

GLP-1受容体作用薬は血糖値を下げたり、食欲を抑えたりする効果があり、体重が減りやすいのは確かなようです。製薬会社は、この体重減少効果に着目して、同じ薬の適用範囲を肥満症の治療にも広げようとしています。イーライ・リリーが行った肥満症を対象にした治験では、この薬を使った患者は平均26.6%体重が減少したそうです(米国ではすでに肥満症の治療にも使われていますが、日本ではまだ肥満症の治療では公的医療保険の対象になっていません)。

ちなみに、いわゆる太り過ぎと「肥満症」は別物です。肥満症とは「肥満(BMIが25以上)で、肥満による健康障害が1つ以上あるか、健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある」(日本肥満学会のHPより)状態を指します。肥満症の場合、医師の指導による減量が必要で、その原料の手段のひとつとしてこの薬を使う動きがあるということです。

糖尿病のみならず、肥満症へと広がりを見せたことで、GLP-1受容体作用薬は世界的に大ヒットするようになりました。2022年にはノボ・ノルディスクの株価が急上昇し、時価総額が約60兆円に達してデンマークのGDP(国内総生産)を超えたと話題になったほどです。GLP-1受容体作用薬は糖尿病や肥満症だけでなく、心臓病や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、アルツハイマー病にも効果があるとの研究も出てきていて、「夢の万能薬」になるのではという期待も高まっています。

GLP-1受容体作用薬は、食欲を抑制する効果があるため、無理にがまんしなくても自然に食事量が減り、体重が落ちるようで、気軽なダイエット薬としてかなり広がっています。しかし、どんな薬にも副作用はつきもの。GLP-1受容体作用薬の場合、低血糖や胃腸の障害などの副作用のリスクがあるといわれています。

薬と医療の仕組みがややこしいので、話を整理しましょう。GLP-1受容体作用薬は、糖尿病の治療薬として公的医療保険の対象になっていて、将来的には肥満症の治療も公的医療保険の対象に加わる可能性もあります。一方で、美容クリニックなどでもいわゆる「痩せ薬」として同じ薬を手に入れることができますが、この場合、公的医療保険は適用外で、製薬メーカーから見れば目的外使用ということになります。そしてこの目的外使用の需要が多すぎて、糖尿病患者向けの薬が足りない状況になっているわけです。

痩せ薬ブームは沈静化の兆しが見えず、この問題の着地点は未だ見えません。副作用の問題があるので、安易にダイエットを目的に手を出さない方が良さそうです。そして、服用をやめると体重が元に戻る(食欲の抑制効果がなくなり、食べるようになる)という情報も合わせてお伝えしておきます。

 
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