「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しいニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。

今回は、連日トラブルが相次いで報道されているマイナンバーカード問題に関する経緯について解説します。

画像=写真AC

こんにちは。日経新聞を読まない君でも、マイナンバーカードをめぐってすったもんだが起きていることは知ってますよね。問題が多すぎて何が何だかわからなくなりつつありますが、自分自身の個人情報に関わる話なので、そもそも何が起きているのかをまとめてみたいと思います。

まずはここまでのおさらいです。マイナンバー制度ができたのは2016年。住民票を持つ人を対象に12桁のマイナンバーを割り振り、行政手続きで利用するものとして始まりました。この年にマイナンバーカードも始まっています。

政府は、マイナンバー制度はデジタル社会の基盤として、社会保障や税、災害時の手続きなどにかかる行政の負担を軽減するものだとしてマイナンバーの普及を進めてきました。マイナンバーはすでに、様々な税・所得、年金、予防接種、医療保険、児童手当、生活保護、雇用保険、世帯情報、予防接種、公金受け取り口座……などなど29項目と紐づけられているんですね。さらに利用範囲を広げるため、2023年5月にはマイナンバー法等の一部改正法を可決しています。

政府は2024年秋に、健康保険証を廃止して、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」に一本化する方針を打ち出し、運転免許証との一体化も当初予定よりも前倒ししようとしてきました。

そんな政府の狙いとは裏腹にマイナンバーカードはなかなか普及せず、2022年4月時点のイナンバーカードの普及率(申請受付数ベース)は45.8%程度にとどまっていましたが、最大2万円分のポイントを付与する特典を設けたりして猛烈にプッシュした結果、普及率は2023年6月末時点では77.5%まで上昇しています。

あらゆる個人情報と紐付くマイナンバー制度については、否定的な見方をする人も少なくありません。たしかに、「国にそこまで管理されるのはこわい」と感じる人がいるのはわかります。しかし、国民に番号を割り当てて情報を管理する制度は海外の方が進んでいて、実は日本は遅れているといわれているんです。

インドなどは個人情報と顔や指紋の情報まで結びつける制度があったりして、あらゆる情報で個人を識別し、管理する仕組みが各国で始まってるんですね。政府が丁寧な説明を後回しにしてマイナンバー制度を強気で進める背景には、「海外よりも遅れているから」という意識があるのかもしれません。

ところが、ここにきてマイナンバーカードをめぐる様々なトラブルが明るみになってきました。コンビニでマイナンバーカードを使って住民票を取り出そうとしたところ、別の人の住民票が出てきたトラブルに始まり、マイナ保険証の内容が別人に紐づけられて受診履歴や薬に関する情報が他人に閲覧される、マイナンバーと公金を受け取る口座の情報を誤って紐づけたことにより別の人の口座に高額介護合算療養費が振り込まれる、障害者手帳の情報とマイナンバーの紐付けづけミスが発生する……などが次々と報じられました。

トラブル続出でこれは流石にまずいとなった政府は7月19日、マイナンバー法に基づくデジタル庁への立ち入り検査を始めました。検査を行うのは、政府の第三者機関である個人情報保護委員会で、特に公金受取口座の誤登録を問題視しているようです。

住民票や医療の履歴、公金受取口座、障害者手帳など、トラブルが生じたのはどれもかなりコアな個人情報であり、こんなに頻繁に漏洩(ろうえい)問題が起こると流石に見過ごせないということでしょう。しかし、多くの専門家は、トラブルが相次ぐ原因はそもそも政府が拙速にマイナンバーカードの普及をしたためだと指摘しています。短期間に急いでマイナンバーカードを普及させたために自治体の窓口が混乱し、現場にとっては大きな負担になっていました。その結果、人為的なミスが続出してしまったというのが多くの専門家の見立てです。

毎日新聞が7月に実施した世論調査によると、河野太郎デジタル相への期待感は「期待しない」との回答が51%で過半数を上回ったそうです。河野大臣はこれまでマイナンバー問題について強気の姿勢を崩していませんが、状況が改善されるどころか次々にトラブルが出てくる現状に、国民は呆れ気味。マイナンバー問題について政府は秋までに「総点検」を行うとしていますが、どこまで点検できるでしょうか。このままの状態で健康保険証や運転免許証との一体化を進めても大丈夫なのか、不安に感じる人は多いでしょう。不動産業者にとっても、本人確認書類として欠かせないツールなだけに、今後の動向が気になるところです。

 
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