なかなか進まないLGBT関連法案、課題と経緯をわかりやすく解説

「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しいニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。今回は、広島サミット開催前に話題となったLGBT法案の経緯について紹介します。

画像=写真AC

みなさんこんにちは。日経新聞を読まない君でも、性的マイノリティの人たちについてさまざまな議論が盛り上がっていることは知っていますよね。メディアでは関連の法案についてのニュースが連日報じられ、SNSでもさまざまな意見が飛び交っています。LGBTの人々の権利については不動産業も接点が多い話ですよね。というわけで今回は、LGBTをめぐる議論が今どうなっているのか、ポイントを押さえていきたいと思います。

さて、日本にどれくらいLGBTの人がいると思いますか。NPO法人東京レインボープライドによると、日本のLGBTQの割合は3〜10%だそうです。意外と多いですよね。LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとったもので、日本語では「性的マイノリティ」と表現されることが多いです。最近はクィアやクエスチョニング(特定のカテゴリに属さない人、わからない人)を加えた「LGBTQ」、さらにそのどれにも当てはまらない人も含めた「LGBTQ+」と表記されることも増えてきました。呼び方がどんどん変化していくのは、法律上の性別、自分の性についての認識(心の性)、性的指向(好きになる対象の性)の組み合わせがさまざまで、しかもグラデーションがあって、人によってバラバラなためでしょう。LGBTとは同性愛者の話に限ったものではないんですよね。

世界では、この20年ほどで性的マイノリティの人々の権利拡大が大きく進みました。象徴的なのは同性婚の法制化です。2001年に世界で初めてオランダで同性婚が認められたのを皮切りに、欧州や北米、中南米の国々で同性婚が認められてきました。日本では同性婚の法制化はまだ先になりそうですが、2015年4月に渋谷区が全国で初めて同性パートナーシップを認める条例を施行するなど、同性カップルを「パートナー」として行政が認める動きが広がっています。

そんな日本で、新たにLGBTQについての法律が作られようとしているのをご存知ですか。性的マイノリティの人々の理解を進めるための「LGBT理解増進法」の法案について議論されているんです。

この法案は、2021年に自民党を含む超党派議員連盟らがまとめたものです。法案が国会で審議されることなくここまできたのですが、今年に入りG7広島サミット2023に合わせて法制化を進める動きが加速しました。G7の参加国って、こういう性的マイノリティに対する差別撤廃の取り組みに熱心なんですよ。2022年のドイツG7サミットの共同宣言にも性的マイノリティを差別や暴力から保護する内容が盛り込まれていました。実は、G7参加国のなかで、同性婚を認めることや、性的マイノリティの権利を保障する法的な枠組みがないのは日本だけです。今年の議長国なのにこれでは格好つかないよねということで、法的整備を急ぐことになったわけです。

さてその「LGBT理解増進法」ですが、結局のところ、G7広島サミットに間に合いませんでした。それどころか、意見が割れて揉めまくっています。5月に入って、党内の保守派に配慮した自民党が、独自の法案を作成。元の議連の法案から大きく3点修正しました。1つは、「性自認を理由とする差別は許されない」としていたところを、党内保守派への配慮から「性同一性を理由とする不当な差別はあってはならない」に修正。2つ目は、「性自認」を「性同一性」に変更。3つ目は「学校の設置者の努力」の文言を削除。子供が混乱するからだそうです。

さらに、5月25日には日本維新の会と国民民主党が共同で法案をまとめました。この案では、性同一性を「ジェンダーアイデンティティー」に改め、「ジェンダーアイデンティティーにかかわらず、全ての国民が安心して生活できるよう留意する」との条文を加えています。

2つの修正法案は、細かな文言が修正されたり、加わったりしたことで、全体的に対象者を狭めて、性的マイノリティへの差別を撤廃しようという強い意志を弱めるようにしているような印象があります。維新と国民民主の「ジェンダーアイデンティティーにかかわらず、全ての国民が安心して生活できるよう留意する」に至っては、この法律を作る意味があるのかどうかもはやわからなくなっています。

元の法案の趣旨から大きく後退する内容の修正案が出てきたのは、党内外の保守派への配慮からです。自民党内の保守派は以前から同性婚反対を主張していますし、社会的にも性的マイノリティの権利保護に逆行するような論調の意見がたくさん出てきています。性別の表記を廃した「ユニーバーサルトイレ」の議論はその一例でしょう。性的マイノリティに配慮した社会を作るための議論だったはずが、かえって社会の分断を深めている側面もあり、とても難しい状況です。

 
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