日本市場へ熱視線。バフェットがなぜ「投資の神様」と言われているのか解説します

「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しいニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。今回は、「投資の神様」と称されるウォーレン・バフェットを解説します。

画像=Pixabay

日経新聞を読んだことがない君でも、アメリカの大物投資家、ウォーレン・バフェットの名前くらいは聞いたことはありますよね。御年92歳の「投資の神様」は今年4月、2度目の日本訪問を果たし、日本企業へのさらなる投資に意欲を示して話題になりました。

バフェットといえば、2022年のフォーブスのビリオネアランキングでは5位で総資産1,180億ドル(約15.8兆円)の大富豪。彼が次にどこの株を買うのか、金融市場をどのように見ているのか、その発言が常に注目を集めています。でも実のところ、バフェットがなぜ尊敬されているのか、どんな人物なのか、よく知らない人も多いのでは。当たり前すぎて他人にはなかなか聞きにくいウォーレン・バフェットという人について、知っておくと便利なキーワードを押さえながらざっくり解説します。

まず、押さえておきたいのは、ウォーレン・バフェットはバークシャー・ハサウェイ(本社:ネブラスカ州オマハ)というアメリカの投資会社の会長兼CEO(最高経営責任者)であるということです。

バフェットは1930年にネブラスカ州オマハで生まれました。証券会社を経営する父の背中を見て育ち、進学先のコロンビア大学では経済学者にして著名な投資家でもあったベンジャミン・グレアムのもとで投資を学びました。その後、人からお金を預かり、投資する運用会社を経営し始めたバフェットは、バークシャー・ハサウェイという繊維会社の株式が割安になっていることに目をつけ、買い始めます。1963年にはバークシャーの筆頭株主になり、バフェット自らが経営のトップにつきました。そしてバフェットは、バークシャー社をさまざまな事業に投資したり、企業を買収したりする会社へと作り変えていきました。

ポイントは、バークシャー社はさまざまな事業を傘下にもつ巨大なコングロマリット(複合企業)だということです。

バフェットはさまざまな企業に投資・買収することで事業を拡大してきました。保険、鉄道、エネルギー、製造業、小売業などバークシャーが傘下に持つ企業の範囲はかなり多岐にわたります。バークシャーが親会社になっている例としては、鉄道では貨物輸送のBNSF鉄道、保険ではアメリカの大手自動車保険会社、GEICO(ガイコ)があります。

他方で、バークシャーでは、株式市場を通じてコカ・コーラやアップルなどの上場企業に投資する事業も展開しています。「投資の神様」の文脈で注目されるときは、こちらの投資事業の方に着目されることが多いようです。

次のポイントは、バリュー投資で有名な「投資の神様」であること。

多額のお金を投資市場で動かしているバフェットですが、彼が「オマハの賢人」と呼ばれ、投資家たちの尊敬を集めているのは、投資市場で長期間にわたって同じスタイルで投資を続け、高いパフォーマンスを維持し続けてきたからだと言われています。バークシャーが公開している株主への報告によると、1965年から2022年までの年平均収益率はバークシャーが19.8%、これに対してアメリカの代表的な株価指数S&P500は9.9%とのこと。長期の成績がS&P500をこれだけ大きく上回ることは驚異的です。

その驚異的な成績を上げるバフェットの投資スタイルを簡単に説明すると、「株価が割安な銘柄を買う」「長期間保有する」の2つに集約されると言われています。

本来の価値よりも株価が割安になっている銘柄に投資することを「バリュー投資」と言います。バフェットが師と仰ぐ経済学者のグレアムが考案した投資理論です。バフェットはこれを実践してきたわけですね。

もうひとつは、長期保有。バフェットの長期投資の代表例がコカ・コーラです。バークシャーは1980年代にコカ・コーラ株に投資し、1990年代までに買い増しして、その後保有を続けています。また現在、バークシャー社の上場企業投資ポートフォリオの中でも大きな位置を占めるアップル株も、2016年の投資以来、保有を続けています。

こんな具合に、割安な銘柄を見つけて、長い時間ホールドし、成長の果実を受け取る。投資の神様はこの基本を貫くことで資産を大きく膨らませた……というイメージで紹介されることが多く、投資本でもそのように紹介されていますが、実際には中短期の投資もたくさんしていて、保有株の売却もよくしています。またお気に入りの銘柄といえども、長期的に持ち株を増やし続けているわけではありません。バフェットの投資を題材にした教材や講座がたくさんありますが、実際はそんなに単純なものではありません。興味のある人は、バークシャーの発表資料やバフェット自身の発言などを広く深く読み解きながら、自分で研究した方が得るものが大きそうです。

最後に、バフェットが2023年に来日した理由、それは投資先である切削工具メーカーのタンガロイ(福島県いわき市)と、総合商社5社を訪問するためでした。バフェットの日本企業への投資といえば、記憶に新しいのが商社ですよね。20年8月にかけて伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事の5社の株式に投資していたことが判明し、話題になりました。バフェットは今回、商社各社を初めて訪問し、トップと会談しました。将来的に商社との事業の協業にも関心を示したそうです。さまざまな事業を抱えるコングロマリットである日本の商社は「わかりにくい」と投資家から低評価を受け、株価は長年に渡り割安に放置されてきました。しかし、さまざまな分野の企業を傘下に持つバークシャーにとっては、むしろわかりやすいビジネスモデルなのかもしれません。

日本経済新聞の単独インタビューでは、日本株への「追加投資を検討」することを示唆して、日本への投資に意欲を見せました。市場は色めき立っていますが、割安であることを重視する投資家が、あえて事前予告をするのは不自然な感じもします。さて、バフェットの真意はどこにあるでしょうか。

 
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