アメリカの銀行破綻について、理由や経緯をわかりやすく解説します

「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しいニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。今回は、アメリカで相次いでいる銀行の破綻について解説します。

画像=PIXTA

日経新聞を読まない君でも、アメリカの銀行が破綻したことは知っていますよね。2023年3月に入り、相次いで2つのアメリカの銀行が破綻しました。3月10日はシリコンバレー銀行(SVB)が、12日にはニューヨークのシグネチャー・バンクが破綻しました。アメリカの銀行の破綻の規模ではSVBが史上2番目、シグネチャーが史上3番目ということですから、普通ではないことが起きていることはなんとなくわかりますよね。世界の金融市場に不安が広がり、大幅な株安を招いた2008年のリーマンショックの再来を危惧する声も出てきています。ここまで来ると、日経新聞を読まない君にも影響があるかもしれません。でも、金融の話は難しいですよね。ということで、いま最低限押さえておきたいポイントをまとめてみました。

まず、破綻した銀行はどんな銀行なのでしょうか。シリコンバレー銀行(SVB)は、スタートアップへの貸し出しで知られる銀行です。創業は1983年、テック系やヘルスケア系スタートアップが預金口座を開いていることで知られています。総資産は約2,000億ドル(約26兆円)。日本の地銀2番手のコンコルディア・フィナンシャルグループ(横浜銀行と東日本銀行の持株会社)と同じくらいの規模というと、かなり大きな規模の銀行であることがわかると思います。

次に、SVBはなぜ破綻したのかを見ていきます。大きな背景にあるのは、アメリカの中央銀行に当たる米連邦準備制度(FRB)による利上げです。世界では中央銀行が市場に資金を供給する金融緩和政策が続いてきました。しかし、コロナ禍がひと段落し、経済が正常化する中でインフレ(物価の上昇)が進んできました。これに対して、市場に出回るお金を減らし、モノの価格の値上がりを緩やかなものにとどめるため、FRBは金利の引き上げ(利上げ)を始めました。

利上げをするとなぜ市場のお金が減るのか。ごく簡単に説明すると、金利が上がると、企業はお金を借りにくくなり、設備投資を控えるようになります。不動産業の皆さんは、金利の上昇が事業に与える影響の大きさをよくご存知ですよね。企業だけではなく個人も、金利負担が怖いので住宅を買い控えたり、車の購入を見送ったりするようになります。こうして市場にお金を出回りにくくして、物価を加熱しないようにさせるのが利上げです。

SVBに話を戻しましょう。SVBは、「企業がお金を借りにくくなる」という利上げの影響をかなり強めに受けたと考えられます。スタートアップ企業は、利上げにより金利が高くなったために銀行からお金を借りにくくなり、さらに株安が進んで株式市場からの資金調達も難しくなりました。資金繰りが厳しくなり、SVBの口座から資金を引き出す動きが殺到、こんなにお金引き出されてSVBは大丈夫なの?とさらに不安が広がり、預金者が口座からこぞってお金を引き出す「取り付け騒ぎ」が起きて破綻に追い込まれました。

さて、SVBの破綻については、もう一つの側面にも注目する必要があります。それは集めた預金の運用で損失が出ていたことです。これもやはり、引き金を引いたのは利上げでした。

SVBはスタートアップ企業が預金口座に預けたお金を、住宅ローン担保証券(MBS)や国債で運用していました。一般的に、中央銀行が金利を引き上げると、債券の金利も上昇(価格は下落)します。つまり、金利上昇局面では、債券の価格は下がっていくというわけです。債券の金利と価格の関係は、収益不動産の利回りと価格に置き換えてもらうと、わかりやすいと思います。3月8日、SVBが18億ドルの有価証券売却損を計上したことで、運用資産の含み損が明るみに出ました。この発表でさらに顧客に不安が広がり、預金の流出が加速。10日の破綻へと至ったわけです。

3月12日には仮想通貨業界への融資で知られるシグネチャー・バンクも破綻に追い込まれていますが、こちらは詳しい状況が明らかになっていませんが、利上げによる急速な市場環境の悪化が影響していることは間違いないでしょう。

アメリカの金融当局はSVBもシグネチャー・バンクも、預金者の預金を全額保護するという異例の措置を発表しています。アメリカの預金保護の上限は25万ドルです。それを超えた預金の引き出しを認める措置には、社会に不安を広げたくないという強い思いが感じられます。

しかし、金融市場では、さらなる危機へと発展することを警戒する声が出てきています。米紙ブルームバーグによると、アメリカ金融市場の大物の一人、大手投資会社ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)が、「銀行危機はSVBの経営破綻にとどまらず、さらに悪化する恐れがある」と危機感を示したそうです。金利の話は不動産業に直結します。しばらくは注意深くニュースをチェックした方がよさそうです。

 
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