「新しい資本主義」をわかりやすく解説しておきます

画像=Pixabay

みなさんこんにちは。日経新聞を読まない皆さんはご存知ないと思いますが、ゴールデンウィークの最中に、岸田文雄首相がみなさんの所得が倍増するプランを表明しました。これは岸田首相が自らの看板政策として掲げてきた「新しい資本主義」の中核となる政策と言われています。所得が2倍になるってどういうことでしょうか、みてみましょう。

昨年の自民党総裁選の時から、岸田さんが主張し続けてきた、「新しい資本主義」という言葉。小泉政権以降の規制緩和や構造改革によって、格差や社会の分断が深まったという問題意識に基づき、政策によって「分配と成長の好循環」の実現を目指すというものです。つまり、この20年間ほど自民党が続けてきた経済政策の問題点を指摘し、経済成長しつつ、格差をなくしていこう、そういう意気込みの政策なのだと思います。

分配を重視するといわれると、社会主義的な印象も受けますよね。そもそも、新しい資本主義って、何でしょうか。どのへんが新しいのでしょうか。岸田首相の新しい資本主義の具体的な内容についてはあまりわかっていない点も多いのですが、この概念が登場してきた背景を考えると、なんとなく方向感はつかめます。

実は、岸田首相が新しい資本主義を言い出す前から、世界的に資本主義の問題点を指摘する動きが大きくなりつつありました。特に、株主の利益ばかりが優先されすぎていないか、ということは、世界的に問題になっていました。

資本主義の社会、特にアメリカでは、「会社は株主のもの」であり、経営者は利益を追求して、株主に配当を多く出すことこそが「正義」であると当然のように考えられてきました。しかし、世界中で格差や環境問題が深刻化する中で、その「正義」は本当に正しいのか、疑問の声が上がるようになったんです。株主への還元を重視するあまり、労働者の賃金は低いままだったり、環境への配慮を怠ったりしていないか。短期的な利益を追い求めるあまり、「株主至上主義」になっているのではないか。そんな声が、欧米の経済界の中から出てきました。

この株主資本主義に対する概念として、2020年1月のダボス会議(世界経済フォーラム)で「ステークホルダー資本主義」が提唱されたのを記憶している人もいるかもしれません。株主だけでなく、そこで働く従業員や、取引先、地域社会、環境など、あらゆる関係者に配慮した企業経営をしていきましょうという考え方です。

岸田首相の提唱する「新しい資本主義」の概念も、こうした世界的な資本主義を見直す動きの文脈の中に位置づけられると考えられています。岸田首相の経済政策のブレーンと言われている、原丈人さん(アライアンス・フォーラム財団代表理事)が提唱する「公益資本主義」も、株主以外への利益分配を配慮すべきとしています。

こういう文脈で捉えてみると、給料を上げた企業は税金が優遇される賃上げ促進税制や、高所得層の実質的な優遇を是正する金融所得課税の見直しなどの政策が出てくる背景を理解できると思います。当然のことながら、株主すなわち投資家からの反応は悪く、岸田さんが首相に就任して以降、株価が大きく下がりました。「政府が企業経営に介入するのは資本主義ではなく社会主義ではないか」という指摘も出てきています。

「資産所得倍増」ってナンだ?

さて、そんな新しい資本主義について、いよいよ具体的な政策が出てきつつあります。その一つが、5月5日にイギリスの金融街、シティで行った講演で岸田首相が提唱した「資産所得倍増プラン」です。

これは、2000兆円といわれている個人の金融資産を、株式市場に振り向けることで、配当や株式の売却益によって個人も儲けられるようにしますよという、そういう政策のようです。「資産所得」っていうのは、会社からの給与所得ではなく、いわば資産運用によって得る所得のことなんです。個人の金融資産2000兆円のうちの半分は、銀行預金などになっていて、株式を買うなどの資産運用には使われていません。このお金を、株式市場に誘導します。NISA(少額投資非課税制度)などの資産運用の優遇策も拡充します、そういう話を「資産所得倍増プラン」としてぶち上げたそうです。

この講演では、新しい産業の育成や賃上げ税制、環境問題への取り組みなどについても語ったそうです。しかし全体としては、これまでの自民党政権の経済政策との大きな違いは感じません。株主重視を批判しつつ、国民みんなを株主にしちゃおうという、そのあたりの方向感のちぐはぐさもすっきりしません。

これまで内容がよくわからないと言われてきた岸田首相の新しい資本主義。6月には経済財政運営の指針「骨太の方針」と、新しい成長戦略が発表されるとみられ、これからその内容が具体化してきます。みなさんも、自分ごととしてチェックしてみてください。

 
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