画像=Pixabay

日経新聞を読まない君でも、イーロン・マスクという名前は聞いたことがあるでしょう。アメリカのEV(電気自動車)メーカーであるテスラや、ロケット事業のスペースXなど、時代をリードする企業を多数経営するアメリカで最も有名な経営者の一人です。

そのイーロン・マスクが経営する企業の中でも、最も規模が大きいのがテスラです。現在、テスラの株価が絶好調で、時価総額は10月に1兆ドルを突破し、現在は1.2兆ドル(136兆円、11月5日時点)で、トヨタ自動車(33兆円)の4倍の規模になっています。

折しも、今は第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が開催中ですが、「カーボンニュートラル」「脱炭素」は国家の目標としても、企業の課題としても、待ったなしになっています。そんな中で、EVメーカーのテスラは脱炭素の代表銘柄であり、米レンタカー大手が「テスラ3」を10万台発注したなどのニュースも加わって、株式が買われたようです。

では、脱炭素の波に乗るテスラとはどんな会社なのか、もう少しくわしく見ていきましょう。

テスラの創業は2003年。新興EVメーカーとして08年に最初のスポーツカー「テスラ・ロードスター」を発表し、12年にはセダンの「モデルS」、15年にはSUVの「モデルX」を発売しました。世界初の量産EVといわれた三菱自動車の「アイミーブ」の量産が始まったのが2009年なので、テスラは自動車業界の中ではかなり早い時期からEVの開発を進めてきたことがわかります。17年には普及価格帯の「モデル3」を市場に投入しまして、これが現在も主力商品の一つになっています。

実は、自動車世界最大手のトヨタはEVには消極的で、環境に配慮した車種といえば、プラグインハイブリッド(PHV)または水素で動く燃料電池車(FCV)など。欧州勢はEVの商品を持っていますが、自動車メーカーがEVにものすごく力を入れるようになったのはごく最近なんです。

アメリカではもう何十年も、自動車業界で成功するベンチャー企業が出てきませんでした(日本も欧州もそうですよね)。そこに彗星の如く現れたのがテスラなのです。

日本企業はこの米国に突如現れた自動車ベンチャーに早い段階から興味を示しました。トヨタ自動車は、テスラの年間販売台数が2010年に資本提携を結んでいました。ただし、あまり実績を上げることなく、2017年3月までにトヨタはテスラの全株式を売却しています。パナソニックは07年に提携を結び、車に搭載する電池を供給してきました。ネバダ州のテスラの工場「ギガファクトリー」を共同で作るなど、深い関係づくりを進めてきましたが、パナはすでにテスラ株を売却しています。テスラが独自に電池を作り始めたことが背景にはあるようで、パナとテスラの蜜月はすでに終わったようです。

というわけで、世界から注目を集めるテスラですが、自動車メーカーとしての実力はどれくらいでしょうか。まず、売上高で比べてみると、テスラは468億ドル(約5.3兆円)で、トヨタ自動車の27兆円(21年3月期)の5分の1程度です。2020年の世界新車販売台数は、テスラは49万9550、世界1位のトヨタは126万台、ホンダは29万台。テスラは販売台数の規模ではまだまだです。

脱炭素の大きな追い風を受けているとはいえ、規模の面で世界の大手に食い込めるかどうかは今が勝負どころといえそうです。

テスラの株式は2020年の年初あたりから緩やかに上昇基調を続けているのですが、その大きな要因として、黒字化を達成したことがあります。テスラが黒字化できたのは、営業利益では2019年12月期から、純利益では20年12月期から。黒字化できたことで、投資家の評価が大きく変わっていたとみられます。

ただし、利益の構成をみてみると、ちょっと注意点もあります。テスラは温暖化ガス排出の規制枠(クレジット)の販売による収入が大きいんですね。海外では、自動車メーカーに対して温室効果ガスを出さない車を一定数販売する義務を課している地域があります。米カリフォルニアが代表例です。義務を達成できない場合は、罰金を払うか、他の企業から「枠」を買うのですが、テスラはこの規制の枠の販売で大きな利益を得てきました。2021年7月~9月期もクレジットの売却で3億9700万ドルの利益をあげています。この枠の販売が特にこの1、2年は好調だったために、黒字化できたと見る専門家もいます。反対に、このクレジット販売に翳りが見えてしまうと、再び赤字に転落する恐れがあるわけです。

ドイツのベルリン郊外、中国・上海などにもギガファクトリーをつくり、量産を目指すテスラ。本当の意味でEVメーカーとして成功するかどうか、メーカーとしての力が問われています。

 
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