史上最速ワクチンと日本の研究開発

「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しい経済ニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。今回は、もう最初から終盤までずーっともめている五輪・パラリンピックについて現状をまとめておきます。本当、何やってんの?!(リビンマガジンBiz編集部)

画像=Pixta

ようやく本格化してきたワクチン接種

みなさんこんにちは。いよいよ新型コロナのワクチン接種が本格化してきましたね。大規模会場での接種や職域接種なども始まりつつあるので、希望者が年齢を問わずに接種できる機会が広がりそうです。というわけで今回は、日経を読んでいない君たちでも押さえておきたいワクチンの基本を見てみたいと思います。

今、国がおさえている新型コロナワクチンは、ファイザー製、モデルナ製、アストラゼネカ製の3種類です。ただし現在、実際に接種に使われているのは、ファイザーとモデルナの2種類になります。基本的に、大規模接種会場や職域接種などではモデルナ、自治体の集団接種やかかりつけ医による個別接種などではファイザーが使用されることが多いようです(自治体により異なる可能性もあるので、気になる人は自分で確認してください)。

ワクチンは、新型コロナの発症を予防したり、重症化を防ぐ効果があると考えられています。気になる変異株への効果は、今のところはある程度はあるとみられています。また最新の研究では、今世界中で接種が進むコロナワクチンは、感染そのものを抑える効果もあるのではないかという報告が出ています。

ワクチンを打つ人が一定数まで増えて、感染を押さえ込むことができるようになれば、コロナに怯える生活から解放されます。ワクチンは全ての人が接種する必要はないので、打てない人、打ちたくない人は打たなくても大丈夫。一方で、ワクチンを打ちたい人、打てる人はなるべく早期にたくさんの人が接種した方が、社会的に効果を得やすいと考えられています。

その点で日本はワクチン接種で出遅れていると言わざるを得ません。ウェブサイト「Our World in Data」がまとめた、各国の少なくとも1回、ワクチンを接種した人の割合を見てみると、カナダ、イスラエル、イギリスなどはすでに60%を超え、アメリカやイタリア、フィンランド、ドイツなども50%前後まできています。お隣の韓国は27.8%。そして日本はどうかというと、いまだ16.4%です(6月17日時点)。世界的にかなり低い方で、ブラジル(28.3%)よりも低い水準にあります。

ワクチンを自国で開発できなかったとか、買い負けしたとか、そういう問題ではないようです。全国民に配っても余るくらい大量にワクチンは確保できていて(だからこそ、台湾にプレゼントしたりしています)、量の問題はクリアしている。では何が問題かというと、効率よく短期間で接種することがなかなかできない政治的・社会的な事情からワクチン接種が遅れてしまっているようです。

画像=Pixta(実際のワクチンの画像ではありません)

史上最速で開発されたmRNAワクチンとは

さて、みなさんがこれから受けることになるワクチンについて、もう少し詳しくみてみましょう。現在、日本で使用されているファイザーのワクチンもモデルナのワクチンも、「m(メッセンジャー)RNAワクチン」という種類のものになります。このmRNAワクチン、世界で初めて実用化されたタイプのワクチンで、これまでのワクチンとは大きく異なる特徴を持っています。

通常のワクチンは、無毒化したり、弱毒化したりしたウイルスそのものをワクチンにして、体内に接種します。そうすると、ウイルスが侵入してきたと勘違いをした体の免疫が、そのウイルスへの攻撃態勢を覚えて(抗体を作って)、そのウイルスに対抗できるようになる。簡単に言うとそんな仕組みです。

しかし、この従来型のワクチンの作り方は、非常に時間がかかります。この方法を待っている時間はない。そうした中で出てきたのが、mRNAワクチンという新しいタイプのワクチンです。

ファイザーの製品を例に説明してみましょう。ファイザーのワクチンはまず、RNAというウイルスの遺伝物質の一部を人工的に合成します。この遺伝物質は、コロナウイルスがヒトに感染するときに必要なたんぱく質の「設計図」みたいなものです。この人工的に作った遺伝物質を、脂の膜で作った「入れ物」に入れて、筋肉注射します。すると、体の中で疑似コロナ遺伝情報をもとに、コロナっぽいたんぱく質を作り、それに対してウイルスに感染した時のように体の免疫が働き、抗体が作られます。難しいですね。

一言で言うと、従来は動物を使ったりしてすごく時間がかかっていたワクチン開発の時間を新しい技術で短縮したということです。mRNAがなかったら、こんなスピード感でワクチンを開発することはできなかったはずです。ただし、人類初のワクチンなので、将来的な体への影響を気にする専門家がいるのもまた事実です。

基本的に同じ仕組みのファイザーとモデルナのワクチンですが、ファイザーの方がアナフィラキシーが起きる確率が少し高いということで、会場での副反応管理がしやすそうなモデルナ製が大規模接種会場などで使われているそうです。ただし、モデルナは2回目の接種後に発熱する人がファイザー製よりも多いとの話もありますので、一長一短です。

ちなみに、血栓ができる副反応が相次いで報告されたアストラゼネカとオックスフォード大学が共同開発したワクチンは、日本でも「様子見」でいまは接種されていません。

こちらのワクチンは、遺伝情報を運ぶ入れ物がファイザーやモデルナとは異なります。アストラゼネカ製ワクチンの入れ物は、一言で言うと、チンパンジーに感染してかぜ症状を起こすアデノウイルス(一般的な風邪のウイルスの一種)です。もちろん、体の中で悪さをしないように、アデノウイルスは改変されています。

今回出てきたmRNAワクチンは、遺伝子組み替えや遺伝子治療の分野の技術が基礎になって開発されたといえます。コロナウイルスから特定のタンパク質をつくるための遺伝情報だけを取り出したり、それをヒトの体に安全な形に改編し、そして体内に運び込む(入れ物をつくる)技術は、いずれも遺伝子治療の分野などでそれぞれ実用化されています。

残念なのは、この遺伝子治療の分野で日本の製薬会社や研究機関は大きく出遅れていることです。この20年ちょっとの間に、世界の中で差をつけられてしまいました。なぜ、日本の製薬会社でコロナのワクチンができなかったのかと言うと、その基礎的な技術が不足しているからということになります。本当に残念ですよね。

アメリカのファイザーや、イギリスのアストラゼネカと並び、早期にワクチンを世に出したモデルナは、2010年創業のアメリカのバイオベンチャーです。そして実は、ファイザーのワクチンの源流も、ドイツのバイオベンチャー、ビオンテックの研究です。非常に専門性の高いベンチャー企業や基礎研究に早期からお金を投資し、その果実を得る仕組みがきちんと機能してきたことで、人類にとって必要なワクチンを早期に作り出すことが出来ました。日本はこの動きに貢献できなかった。それがどういうことなのか、問題はどこにあるのか、見直していく必要がありそうです。

(※世界のワクチン接種状況・参考サイト)
 
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