ユニクロがアメリカンから閉め出し?ウイグル問題について

「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しい経済ニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。今回は、世界的な問題になっているウイグル問題について、身近なユニクロの影響を入り口に考えてみます。 (リビンマガジンBiz編集部)


画像=PIXABAY (アメリカ・アラバマ州の綿花)

日経新聞を読まない君たちでも「ウイグル」が世界的な問題になっていることになんとなく気がついていると思います。中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区で起きている問題は、ユニクロなど日本の企業にも広がり、経済界に大きな波紋を投げかけています。今回はこのウイグル問題について、基本を抑えてみましょう。

ウイグルをめぐる問題で、まさに今注目されている企業がユニクロです。米税関・国境警備局が今年1月、新疆ウイグル自治区の強制労働をめぐる輸入禁止措置に違反したとして、ユニクロ製品の輸入を差し止めしていたことが明らかになり、大騒ぎになっています。

輸入差し止めの理由は、ユニクロの男性用シャツに中国共産党傘下の組織、ウイグル綿花生産団体「新疆生産建設兵団(XPCC)」が、原材料の生産に関わった疑いがあるためです。2020年12月、トランプ前大統領が、XPCCはウイグル人を強制労働させているとして、XPCCが関わった綿製品をアメリカに輸入することを禁止したんですね。アメリカは輸入する企業に対して、強制労働の製品を使っていないと証明する義務を課しています。これに対し、中国側は新疆ウイグル自治区に強制労働などないと反論しています。

ここまでの流れで明らかなように、昨今のウイグル問題は米中の対立が背景にあるわけですが、ウイグルの問題は今に始まったことではありません。そもそも中国のウイグル問題って何でしょうか。

新疆ウイグル自治区は、中国の西端にある自地区です。地図で確認してもらうとわかるのですが、非常にでかい自治区です。中国の省・自治区の中で最大です。東側をモンゴルに、東側はカザフスタンやキルギス、タジキスタンなど中央アジアに接しています。人口は2500万人とされ、ウイグル族のほか、カザフ人、タジク人、チベット族などなどかなり多様な少数民族が住んでいます。そして主な宗教はイスラム教です。民族の構成や宗教からして、中国国内ではかなり独特の位置付けであることがわかります。

中国やロシアなど、広大な国土に多様な民族が住む多民族国家は、国内の独立運動を抑えて国を統一し続けることに常に悩み、かなりのエネルギーを費やしてきました。この辺の感覚は、日本人には分かりにくいですよね。でもこれは、歴史的に大きな問題であり続けているわけです。中国にとってはとりわけ、新疆ウイグル自治区とチベットが重要課題であり続けてきました。中国共産党にとっては、過去に独立運動が活発化した時期もあるウイグルは、国家の統一を維持する上で常に「危険地帯」であり続けてきたわけです。

中国政府は、ウイグル族が住むこの地域に、漢民族を大量に移住させる政策を続けてきました。いわばその実働部隊がXPCCです。この組織が作られたのは1954年と意外と古く、準軍事組織であり、思想を監督したり、製品を作って販売する生産活動をしています。そして経済的な活動の主たる柱が綿花栽培です。

XPCCは、ウイグル族を強制労働させているとかねてから指摘されています。これを問題視したトランプ政権は、ウイグル族を強制労働させる生産活動に関与しないように、米国企業に企業に警告していました。

しかしこの問題、アパレル企業にとっては非常に頭の痛い問題です。実は、中国は世界第2位の綿花生産国で、中国生産の8~9割をこの新疆ウイグル自治区が占めています。ウイグルとの取引を突然断ち切ると綿花の確保が非常に難しくなってしまうわけです。しかも、綿花の栽培・生産は複雑な工程なため、輸入する製品が強制労働にいっさい関わっていないかを証明するのも難しいと言われています。

中国政府は新疆ウイグル自治区で強制労働や強制収容、拷問、堕胎や不妊手術の強制などウイグル族に対してさまざまな弾圧を行なっているとかねてから指摘されてきました。国際的な人権団体などがこの問題を訴えてきましたが、ここにきて企業活動に本格的に影響が出るようになってきたことには、大きな社会の変化があります。

一つは、先ほどから出てきている米中対立の悪化。もう一つは、ESG(環境、社会、統治)投資の拡大です。欧州の大口投資家を中心に、投資家は企業に対してESGにかなった企業経営を行うことを強く求めるようになっています。従来のESGというと、「E」の環境について、二酸化炭素排出量の削減や化石燃料の取り扱いからの撤退などを求めてる動きが注目されていましたが、最近は「S」の社会についても、厳しい目が向けられるようになっています。企業内の社員の働き方についてもそうですし、国際的な問題として人権問題についても、投資家が企業に対して情報の開示と正しい行いを求めているわけです。これまで、人権団体から何か言われても企業の活動を大きく変えるだけのうねりにはなりませんでしたが、投資家からそっぽを向かれる(株式を売られる)事になると企業としてはとて困るので、企業としてはESGを無視できなくなってきています。

日経新聞の調査によると、アパレルのワールドやスポーツ用品のミズノなどが新疆ウイグル自治区産の「新疆綿」の使用をやめることを表明しているそうです。他方で、綿花栽培はウイグルの人々にとって生活の糧となっている産業であり、そこから撤退すれば、ウイグル族の人々が生活に困る可能性もあるでしょう。何が本当に「人道的」であるのか、企業は真剣に考えなければならない局面を迎えています。

新興国における綿花の栽培や、農業、食品産業などは、実は以前から強制労働や働いている人の健康問題、不正な取引など、超ブラックな問題を抱えていると指摘されてきた分野です。日本の大企業も直接・間接的に関わる部分があるはずですが、遠い外国の、情報開示が進んでいない地域の取引なので、なかなか問題が表面化してきませんでした。今後はそうした問題が少しずつ表に出てくるようになるかもしれません。

 
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