ESGとかSDGsとか、全然わかってないよね?

「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しい経済ニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。今回は、何となく聞いたことがあるような気がするESGとSDGsについて学びます。 (リビンマガジンBiz編集部)

画像=Pixabay

実は不動産ビジネスにも関係あるESGとかSDGs

日経新聞を読まない君でも。「ESG」やら「SDGs」やらという言葉を目にしたことがあるのではないでしょうか。ビジネスの世界を席巻するこのキーワード、大企業だけのものではありません。流石にそろそろ押さえておきたいところですよね。というわけで今回は、世界的な大ブームの「ESG」や「SDGs」を不動産の文脈の中で考えてみたいと思います。

まず、簡単に言葉の意味を確認しましょう。ESG(イーエスジーと読みます)とは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス、企業統治)」の頭文字を取った言葉です。SDGs(エスディージーズと読みます)は、国連が定めた「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称ですね。「貧困をなくす」「ジェンダー平等を実現する」「人や国の不平等をなくす」「エネルギーをクリーンに」など17の目標を掲げています。

ESGとSDGsの違いは分かりにくいのですが、一言で言うと、SDGsは社会や国、そしてそれぞれの個人が目指すべき目標を定めたもので、ESGはより具体的に企業が行うべきことを明確にしているものだと考えればよさそうです。いずれも、環境破壊や人々の不平等の問題などが行き着くところまで来てしまい、このままだと地球も社会も持たないのでは・・・? という危機感が背景にあります。ひたすらに利益を追求する従来の資本主義や企業のあり方を見直して、地球と人への優しさを維持しつつ、成長していくために大事にすべきことを社会で共有していこうという動きです。

つまり、ESGもSDGsも、従来の企業や資本主義とは本質的に相容れない部分があるのですが、世界中の企業はこれを無視できなくなっています。なぜかというと、投資家がこうした指標を投資のモノサシとして重視するようになってきているからです。

ESGを重視する「ESG投資」を強力に進める担い手は、欧州の年金基金など、大きなお金を運用する、発言力の強い投資家です。彼らは、ESGの観点から逸脱した事業を行う企業からは、お金を引き上げます。つまり、株を売っちゃうわけです。二酸化炭素を大量に排出する石油などの化石燃料関連の事業を行う企業には投資しないとか、核兵器見たいな非人道的な武器を扱う企業の株は売るとか、すでに彼らは行動を起こして、一部の企業の株式を売却しています。日本の生命保険会社とか銀行も、この動きに追随しています。企業としては、大口投資家に株を売られると困るので、彼らの要望を聞かざるを得ない。目先の利益が多少減ったとしても、ESGを無視できなくなっているのには、こうした投資家の姿勢が大きく影響しています。

というように、現在、ESGやSDGsの影響を直接的に受けているのは、株式を上場している企業ということになります。では株式を上場していない企業は無関係かというと、そうでもありません。消費者、つまりはお客さんも、商品を選ぶ時に、環境への優しさなどの条件を重視するようになってきています。環境配慮それ自体が付加価値になるわけです。そうした傾向は欧米諸国の一部が顕著で、おそらく、今後は世界的にもそういう傾向が広がると思われます。だから、日本の、未上場の不動産会社も、ESGやSDGsを無視していいわけではないということです。

儲けるだけじゃなくて、社会を幸せにしよう

では具体的に、日本の不動産業におけるESGって何でしょうか。おそらくこれから、いろいろな議論が出てくると思いますが、代表的なものを考えていきます。

先行しているのは、「E」の環境の分野です。主に建物や設備に関する部分で、もともと取り組みが始まっていました。建物の省エネ化、太陽光発電などクリーンエネルギー設備など、省エネ・再エネ分野の取り組みです。この辺りについては、すでに建物の付加価値として認められるようになってきていますよね。

問題は、「S」の社会と、「G」の企業統治の部分でしょう。実は、コロナ禍により、世界の投資家は企業の「S」の部分に大いに注目するようになっているんです。従業員の感染対策のために、速やかにリモートワークに移行したり、オフィスの対応をしたり、そういった取り組みをスムーズに実行した企業があった一方で、いつまでも意味なくオフィスへの出社にこだわり続けた企業と、コロナ禍では対応が別れました。どちらの企業が、大きな環境の変化に対応しながら、成長を続けることができるといえるか。そりゃ、コロナ対策にさっと舵を切ることができた会社ですよね。だから、根性論のブラック企業全開の会社は、「S」の評価が低くなります。実はコレって、投資家だけが重視するポイントではなく、働いている人にとっても大事な話で、「S」を大事にしないブラック企業は働き手の確保にも今後、苦労すると思います。ESGって、ヨーロッパの投資家だけではなく、皆さん自身にとっても会社を選ぶ上で大事なモノサシになるんです。

もっと具体的な業務で言えば、物件の「おとり広告」とか、お客さんへの不十分な情報開示とか(物件を借りさせる・買わせるために都合の良い情報しか教えないとか、そういうことです)、銀行と結託して不動産投資で融資を引き出すために不正な書面を作ったりとか、そういう行為も入ります。過酷なノルマ営業とか、パワハラ・セクハラなども同様です。

これらはESGなんて高尚な言葉を持ち出すのも虚しくなるような、当たり前のことではありますが、ESGブームをいまだに業界で根づくブラックな慣習を見直すいい機会にしてほしいです。おそらくこれからの若者は、就職先を選ぶときにも、ESGをモノサシにします。そしたら、ブラック全開の不動産業者は従来以上に良い人材を確保しにくくなります。欧米の投資家とは無縁の街の不動産業者であっても、ESGは無視できないものになる。そんな時代が始まろうとしています。

 
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