TikTokがもめているらしいですが、何で?

「日経新聞くらい読めよ」社会人なら誰もが一度は言われたセリフです。そりゃ、客先で経済ニュースを語れるとかっこいいですもんね。でも、「だって、みんな読んでないしな…」と、何となく済ませている人も多いのではないでしょうか。それでは、心許ないので最低限に知っておいて欲しい経済ニュースを、経済誌の現役記者・編集者がこれ以上ないくらいにわかりやすく解説します。今回は、何だか知らないんですが…TikTokがもめているようなんです。その背景を解説します。 (リビンマガジンBiz編集部)

みなさんこんにちは。在宅勤務が長くなり、新聞を読む習慣が薄れて、どんどん日経新聞から離れている人もいるのではないでしょうか。しかし世界では、コロナ禍の中で見過ごせない変化が起きています。今週は、トランプ政権による、中国発の動画アプリ「TikTok」のアメリカからの締め出しについて考えていきます。

トランプ大統領がTikTokを非難したり、米マイクロソフトが買収交渉を進めていると報道があったり、埼玉県や神戸市がTikTokの利用を停止したり、といった具合に、この1、2週間でTikTokをめぐるニュースが世界を駆け巡っています。

アメリカと中国の対立はトランプ政権誕生後、どんどん先鋭化してきました。第5世代(5G)移動通信システムをめぐり、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)を排除しようとするなど、民間企業が政治的対立に巻き込まれています。今回のTikTokもそうした流れの一つと見ることができます。

トランプ大統領の発言が二転三転したり、よくわからない部分もあるので、これまでの動きを整理してみましょう。

問題が表面化したのは7月。トランプ大統領がTikTokの米国内での使用を禁止すると発言し、8月1日にも大統領権限を行使して米国事業を禁止する方針を表明しました。TikTokのアプリを通じて米国民のデータが中国に渡るかもしれないという、安全保障上の問題が禁止の理由でした。

同じ頃に浮上してきたのが、米マイクロソフトによるTikTokの買収報道です。マイクロソフトは8月に入り、TikTokの親会社、北京字節跳動科技(バイトダンス)と、TikTokの米国事業を買収する交渉をしていること、9月15日までに交渉をまとめることを明らかにしています。

TikTokの事業買収については、Twitterもサービスの「一体化」の可能性をめぐって予備交渉をしているとの報道があります。

こうした動きを受けて、日本国内では、埼玉県や神戸市など一部の自治体がTikTokのアカウントを停止しました。停止の理由は、市民や県民から安全上の不安の声があったためと説明しています。

ちなみに、TikTokをめぐる問題は、投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を通じてTikTokの運営会社、バイトダンスに出資しているソフトバンクグループも、アメリカ政府の政策の影響を受けることになります。WeWorkの失速といい、ソフトバンクは踏んだり蹴ったりですね。

さて、トランプ大統領の気まぐれによってTikTokが槍玉に挙げられたように見えますが、ことの発端はバイトダンスが2017年に「ミュージカリー」という中国発の米国企業を買収し、TikTokにサービスを統合したことに遡ります。この買収に対して、CFIUS(対米外国投資委員会)が、安全保障上の問題がないかどうか、2019年から調査をしていました。調査結果次第では、事業の停止や売却を命じられる可能性があるそうです。

という伏線的なものは一応あったわけですが、要は、米中の対立の中で中国企業に対する警戒が強まっていることが背景にはあります。IT企業を締め出す最大の理由は、情報が中国に筒抜けになることです。ファーウェイやTikTokという民間企業を通じて、中国共産党に米国市民の情報が提供される可能性があることを「脅威」として問題視しています。

そして安全保障上問題を理由とした中国企業の締め出しは、さらに露骨さを増してきました。

8月5日には、ポンペオ米国務長官が通信キャリア、アプリ、アプリストア、クラウドサービス、海底ケーブルの5分野で中国の排除を目指すことを表明しました。これも、中国共産党に情報を取られないようにするための措置です。アリババや百度(バイドゥ)、騰訊控股(テンセント)など中国を代表するIT企業が名指しで批判されており、中でもテンセントのチャットアプリ「微信(ウィーチャット)」まで「脅威」とされたこで、中国人コミュニティはちょっとしたパニックになったようです。

微信はFacebookなどが使用できない中国本土にいる人と連絡を取ることができる貴重なアプリ。これが禁止されれば、中国国外の人が中国国内の人と連絡を取る手段が限られてしまいます。

中国に対する強い態度は、今年11月に控える米大統領選を意識したパフォーマンスとも取れますが、このまま突き進めば、より大きな衝突になる可能性もあり、笑い話ではすみません。かたや、中国政府ももともと国内でFacebookやGoogleの使用を禁止していますので、アメリカを強く非難するのは筋が通らない部分もあります。コロナに気を取られがちですが、世界の行方を占う上で、アメリカと中国の対立にも十分に気を配るべきです。

 
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