はじめまして。明海大学不動産学部3年の礒野隼輔です。

私が所属する周藤(すとう)利一教授のゼミでは、「不動産とトラブル」というテーマで、実際に発生した不動産に関係する様々なトラブルを取り上げ、その原因を分析し、解決策や予防策を探求しています。進め方は、学生一人一人が事例を選択して、レポートを作成、発表し、学生同士で議論するものです。ここでは、私のレポートを紹介します。

裁判事例

裁判事例:取り壊された建物内での8年前の殺人事件

~売買の対象となった土地に過去に存した建物内で殺人事件が発生した事実が「隠れた暇疵」に当たるとされた事例~

大阪高等裁判所平成18年12月19日判決

掲載雑誌:判例時報1971号130頁、判例タイムズ1246号203頁

登場人物の関係図

Y:土地1と土地2の所有者 ―――― X:土地1と土地2の買主

| (不動産賃貸業者)           (建売住宅業者)

A:土地1の借地人・建物の所有者

B:建物の借家人

事案の概要

土地1と土地2を所有していた不動産賃貸業者Yは、昭和62年7月に土地1をAに賃貸し、Aは土地1上にある建物を所有していたが、平成8年4月、この建物内で女性の刺殺体が発見され、当時そこに居住していたBが容疑者として逮捕される事件が発生した。

Aは平成16年5月にはこの建物を取り壊して、Yとの間で土地1の賃貸借契約を合意解約した。

Xは、更地になった土地1と土地2を合わせて(以下「本件土地」という。)等面積に分けて、それぞれ建売住宅を建築して販売する目的で、平成16年11月に、Yから1,503万円で購入した。そして、翌年1月から本件土地の建売住宅用地としての販売広告を行ったところ、10件程度の問合せがあり、そのうち土地1側の部分の購入を一旦決め、買付証明書を作成していた者からキャンセルを受けたことから、警察に照会し、初めて以前に建っていた建物内で殺人事件があったことを知った。

Xは、その後も本件土地を売却できず、建物内で殺人事件があった事実は、「隠れた瑕疵」に当たるとして、Yに対し、751万円余の損害賠償を求める訴えを提起した。

裁判所の判断

(ア)売買の目的物に民法第570条の瑕疵があるというのは、目的物に物理的欠陥がある場合だけでなく、目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥がある場合も含まれる。

(イ)売買の目的物が不動産の場合、上記後者の事由をもって瑕疵といいうるためには、通常一般人が買主の立場に置かれた場合に、それがあれば、住み心地の良さを欠き、居住の用に適さないと感じることに合理性があると判断される程度に至ったものであることを必要とすると解すべきである。

(ウ)本件においては、土地1上にかつて存在していた建物内で殺人事件が発生したものであり、女性が胸を刺されるというもので残虐性が大きく、通常一般人の嫌悪の度合いも相当に大きいと考えられる。

(エ)本件殺人事件は新聞にも報道されており、約8年以上前に発生したものとはいえ、付近住民の記憶に少なからず残っているものと推測され、本件土地1の側の購入を一旦決めた者がその購入を見合わせたことなどの事情に照らせば、本件土地には、その上に建築された建物の居住者が、住み心地が良くなく、居住の用に適さないと感じることに合理性があると認められる程度の、嫌悪すべき心理的な欠陥がなお存在するというべきである。

(オ)そうすると、本件売買の目的物である本件土地上には民法570条にいう隠れた瑕疵があると認められる。

判決のポイント

本件では、裁判所は、買主の損害額について、殺人事件が約8年以上前に発生したものであり、建物は既に取り壊され、売買契約の時点では嫌悪すべき心理的欠陥は相当に風化していたといえること、及び認定事実からうかがわれる諸事情を総合して売買代金の5%に相当する75万円余と認めるのが相当であるとした。

自分の意見と感想

今回の事例は、殺人事件が起きた建物自体は取り壊されていて、言ってしまえば更地の土地を売ったことで起こった事例であり、自分が買う側だったら買うのを躊躇してしまうと感じました。

しかし、売る側の立場に立って考えた場合、既に事件が起きた建物自体は取り壊されており、なおかつ事件は8年以上前になるので、言わなくてもいいのではないかと正直思ってしまってもおかしくはないと思ってしまいました。

重要事項説明の根本は、買う側が納得して土地や不動産を買う事に意義があり、当然だが買う側の気持ちを考慮して売買しなければいけません。

家や土地は消耗品ではなく、誰しも長年暮らして行くために必要なものであるので、どんな仕事も責任は生じるが、その中でも不動産や土地に関するものは売る側の責任は他の仕事より重大なものだと改めて感じました。

指導教員(周藤教授)の解説

瑕疵(欠陥)とは、物件の形状、品質、性能にキズがあることというのが一般的な理解ですが、不動産の瑕疵には、それ以外に、一般人が嫌悪・忌避するような状態(心理的瑕疵)も含まれます。心理的瑕疵の代表例が殺人事件の現場となった不動産ですが、事件後何年経てば、瑕疵が解消されるのか、理論的に説明し難い問題です。

さらに、事件は建物内で発生し、その建物は既に取り壊されたにもかかわらず、その敷地であった土地にまで瑕疵が存在するというのは、厳しいことです。特に、日本では土地と建物は別個の不動産ですから、片方の瑕疵が片方に移るというのは、取引する立場にとっては酷な話でしょう。

このように、心理的瑕疵は、雨漏りのような物理的瑕疵と異なり、容易に解消が困難なものであるだけに、将来、不動産取引に関与する学生諸君には十分注意して欲しいと考えます。

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最後までご覧下さり、誠にありがとうございました。
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