毎週水曜日配信、「カジコンの不動産業界地獄耳」。
業界歴21年、不動産会社専門コンサルタント 梶本幸治さんが、不動産業界で見た・聞いた話を紹介します。

今回は、ある事故物件に関するお話です。誰もが購入をためらう物件でしたが、購入したのは意外な人でした。(リビンマガジンBiz編集部)

(画像=Pixabay)

「心理的瑕疵(しんりてきかし)物件」ってご存知ですか?自殺や他殺、火災等が起こった物件をこう呼びます。「事故物件」って言ったり、「いわくつき物件」なんて呼ぶこともありますね。
心理的瑕疵物件は、相場よりも安く購入できるというメリットがあります。しかし、普通は購入を躊躇(ちゅうちょ)してしまうものです。では、いったいどのような方が購入するのでしょうか?

私の知り合いであるEさんは、住宅を扱う不動産営業マンです。その日は新たに販売を依頼された物件の告知のため、チラシを300枚ばかり刷って物件近隣の方に配布していました。チラシをまいていると、近所の方がお庭に出ておられたので「こんにちは~。○○不動産のEと申します。この度、ご近所のお家が売りに出ましたのでご紹介に伺いました!」と挨拶しました。
この近所さん、ニコニコとチラシを受け取って下さったのですが、チラシの中身を見て表情を曇らせました。そして、こう告げたのです。
この家で自殺があったこと、あなたご存知?

そんな話は聞いていないEさんは、慌てて売主宅へ急ぎました。そして事情を聞いたところ、売主は昔を思い出すように目を細め、数年前に息子が首つり自殺した話をはじめました。そして最後に「できれば黙って売りたかった…」と胸の内を語りました。しかし、そうはいきません。Eさんは、早速価格を2割ほど下げ「心理的瑕疵物件」として、仕切り直す準備を始めました。

相場よりも2割も安いため、ネットやチラシに情報を出すと、連日ガンガン問い合わせの連絡が入るようになりました。ネットにもチラシにも「心理的瑕疵あり」と書いているのですが、激安物件を購入できると思っているお客様たちはそんな小さな文字を読んでいません。「今すぐに物件を見たいんだけど」と勢い込むお客も、Eさんが「自殺物件ですけど良いですか」と聞くと…「ヒェッ…!」とか「えっ!?」とか「騙したな!」などと言って電話を切られます。ちゃんと書いてあるのに「騙したな」とはヒドいですよね。

そんなことが続いていたある日、チラシを手にした男性が綺麗な奥様を連れて来店されました。格闘家の角田信朗さん似な屈強な容貌をされたご主人です。Eさんにチラシを見せながら、「この物件安いね!今から内覧出来る?」と大きな声で尋ねられました。そこでEさんはいつもの通り「自殺物件ですけど良いですか?」と尋ねました。角田さん似のご主人は一瞬表情を曇らせましたが、ガハハと大きな声で笑うとヒゲを撫でながら「自殺?そんなの気にしないよ!もし幽霊でも出るって言うなら、幽霊と酒盛りでもしてやるさ!」と豪気に答えたそうです。

それならばと、Eさんも安心してご夫妻を物件に案内しました。案内中も、無駄に大きな声で話し続けるご主人でしたが、「いや~!気に入ったよ。買わせて貰うよ!」と即決され、購入申込書にサインをして家路につかれました。

翌日になり、契約書の作成など、契約準備を進めていたEさんの携帯電話が鳴りました。電話を取ると、相手は昨日の綺麗な奥様です。「一体どうされたのですか?」と聞くと、奥様は申し訳なさそうに切り出しました。

「すみません。購入のお話、白紙にしていただけませんか?実は、昨日帰宅してから主人が、『首が痛い!首が痛い!』と大騒ぎでした。『これは祟りだ!俺は呪われた!怖い怖い!』と申すものですから。ちょっとあの物件は難しそうでして・・・」

せっかく準備をしていた契約は、こんな顛末になってしまったそうです。おしまい。おしまい。


あっ!「いったいどんな方が購入するのか?」って話をしなきゃならないのを忘れてました。

このご夫婦が来店された3週間後、ごくごく平凡なサラリーマン風の男性(40歳くらい)が来店され、この物件をサクッと購入されたそうです。「自殺物件でも良いのですか?」と尋ねても、「大丈夫です」と答えるだけで、全く気にされる素振りがなかったそうです。

実はこの男性、某新興宗教の信者さんで、教団発行のお札を玄関に一枚ペロッと貼り付けただけで、問題なし。普通に生活を始められたそうです。

心理的瑕疵物件の買主様と言えば、筋肉モリモリの屈強な方や、「人間、死んだらゴミになるだけだ」等とうそぶく方をイメージしがちです。しかしそんな人の方が、最後の最後には怖がる傾向にあのかもしれません。その点、信仰を持っておられる方は「解決策(?)」があるだけに強いのかも知れませんね。

 
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