遠くない将来、不動産テックによって不動産ビジネスは劇的に変化すると言われている。これまでの商慣習や仕組みが変わり、無数の新ビジネスが生まれるかもしれない。


不動産テックに関連する企業経営者や行政機関などに取材し、不動産テックによって不動産ビジネスがどう変わっていくのかを考えてみる。


今回は、多様な部屋を気軽に借りられるスマホアプリ「NOW ROOM(ナウルーム)」を提供しているLivingTech(東京・新宿区)の千葉史生社長に聞いた。(リビンマガジンBiz編集部)

LivingTech・千葉史生社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―提供しているサービスについて教えてください。

2020年5月に正式リリースした「NOW ROOM」は、「初期費用0円。5秒で家が見つかる」がコンセプトのアプリケーションサービスです。

ユーザーは、部屋の検索や閲覧から、予約・支払い決済までをスマートフォン上で完結することができます。

入居審査の手間もなく、敷金・礼金といった初期費用も不要です。シェアハウスからラグジュアリーホテルまで多様な部屋に1カ月から住むことができます。

「NOW ROOM」がターゲットとしているのは、出張等が多く、短期で住まいを借りる事が多いサラリーマンの方々やフリーランス、数年で母国に帰国するような外国人労働者、それに転職者といった隙間の住まいを埋めるマンスリーマンションの市場です。

特にフリーランスやUber EATSなどで働くギグワーカーと呼ばれている人たちは、年々増加しており東京だけでも200万人以上いるといわれています。

フリーランスやギグワーカーには、住まいに関する課題が3つあります。

「審査が通らない」「収入が不安定」「頻繁に勤務地が変わる」です。そういった方々に早い・安い・物件が多いサービスとして「NOW ROOM」を提供しています。

「NOW ROOM」 画像提供=LivingTech

―掲載されている物件について教えてください。

現在、普通賃貸の管理会社やオーナー、宿泊事業のサブリース業者等合わせて、約200社に登録いただいており、シェアハウスから、マンスリーマンション、ホテルといった家具家電付きの部屋が、2020年5月現在、東京都内で3,000室の掲載をいただいています。

「NOW ROOM」を考えついた理由のひとつとして、賃貸物件や宿泊施設の空室の多さに驚いた経験があります。

東京都内の賃貸物件だけで、常に60万室の空室があります。また、ホテルや旅館、民泊、ゲストハウスなどは、平均して38%ほどの空室率、数に直すと年間2.6億泊もの空室があるんです。

こんなに使われていない部屋があるなら、家具家電が揃っていて、すぐに住める部屋を用意して、短期賃貸市場として、今すぐ必要な人たちに届けることができれば面白いと思いました。

―サービスを開始してみて、どういった属性のユーザーが多いですか。

現在、サービスを開始後2週間ほどですが、アクティブユーザーは約2,400人いて、30歳未満の「Z世代」と呼ばれる持たない生活をしている方や、30代の出張が多いサラリーマン、自営業の方々が多いです。

ギグワーカーやフリーランスは、当たり前になりつつある働き方です。固定費をできるだけかけずに自分のライフスタイルにあった、自由度が高く多様な住まいを提供したいと思っています。

―スマートフォンで契約が完結する。本人確認などにトラブルリスクはないのでしょうか。

トラブルを避けるため、予約前の本人確認を、厳密にやっています。

eKYC身分証という金融機関が銀行口座を開設する際に使っている本人確認システムや反社チェック、住所確認、偽造身分証のチェックを専門機関とのAPI連携によって必須にしています。また、クレジットカード情報も取っているため、与信枠を事前に把握しておきます。

さらに、ユーザーとホストが相互にレビューできる機能で補完することができます。

ホストが入居したユーザーを評価し、星が一定以下になると、利用に制限がかかるような仕組みを考えています。

また、今後はSNS認証も連携させる予定です。FaceBookなどの情報から、勤務先や交友関係を取得することで、より厳密な情報を得ることができるようになるはずです。

LivingTech・千葉史生社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―千葉社長のご経歴を見るとロンドンでEC事業の起業し、後に上場企業へバイアウトしています。EC事業で実績があるのに、不動産業界でサービスを立ち上げた理由は何だったのでしょうか。

私自身も海外での住まい探しや契約に苦労した原体験があります。

事業が好調のときには、タワマンに住んだこともありますが、事業が危なくなったときにはシェアハウスにも住みました。

収入や仕事が不確実な人が今後も増加するなかで、きちんとした住まいがない。そういった人たちが余裕をもって生きることができる世界を作りたいという願いがあります。

もう1つは、家賃がとても高いと感じていたことです。

初期費用も高く、都市部で普通に暮らしていくなら収入の3分の1ほどを家賃に取られる。何かできないかと考えました。

ここ数年で大きく成長した民泊は、宿泊業界をディスラプト(破壊)しました。

住居でも同じことができるのではないか。特に、新しく建てるのではなく、余っている物件を安く提供することで、有効活用できるのではと思いました。

どういった物件が余っていて、どう稼働させれば良いのかといったデータをきちんと把握し、様々なリスクを取り除くことができるプラットフォームが必要だと思いました。

―不動産業界はデータが少ない、というのはとても大きな課題になっていますね。

プラットフォームがきちんとデータを集めて、サービスを提供できれば、ユーザーの信用データが蓄積されていきますので、引越しごとに新しく申し込みをし続ける必要性は薄くなってくると思います。

現状の賃貸事業者は、街の不動産会社として非常に重要な役割があると思います。実際に管理するのは非常に大変な仕事です。そこに対して、私たちが様々な部分をオンライン化できるサービスを提供することで、管理をより効率化できる手助けにならないかと考えています。例えば、現在はオンラインで重説が完了する仕組みの開発をしています。

―LivingTech社では、元々ホテルの経営もされていたと聞きました。

当初は、活況になっていた宿泊やホテル業界に向けて無人の本人確認システムを広めていきたいと考えていました。需要もマッチし、1年で300室、6棟くらいの中規模ホテルを全国で急展開しました。

運営受託方式やサブリース方式、ゼロからの企画、赤字を黒字化するなど多方面でホテル運営を経験しました。

そのお陰で、ホテルの事業上の限界値と課題を知ることができました。フロントの人件費清掃コストが一番大きく、集客サイトも多岐に渡り、それぞれ管理方法や手数料が違って、サイトコントローラーの料金といった経費も発生する。スタッフの教育やリネン交換などもあり、都心型では、APAホテルのように駅近で稼働率の良い200室以上の大型化を測るか、無人化してフロントコストを下げるなどの工夫をしないと利益率が悪いビジネスでした。

しかし、それにも関わらずどんどんホテルが建てられて、過剰供給になるのは目に見えていて、危機感を持ちました。これは、宿泊以外での利用モデルを早めに開拓して、ホテルなど宿泊施設と国内ユーザーとをしっかりと繋げることが重要だと感じました。それがあり短期賃貸利用の第一段として2019年から「NOW ROOM」の開発を始めたんです。

LivingTech・千葉史生社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部

―「NOW ROOM」を提案しているなかで、不動産やホテル業界に感じる課題はありますか。

過剰供給という言葉が常態化するまで、延々と建て続けなければ儲からないというモデルに問題がありますね。

焼き畑農業のようになっています。新たにホテル事業を始める人は、建てて、売ることが目的になっています。ある程度PLが回ったら外国人投資家に売る、といったパターンが多い。長期的なことを考えていないことは問題だと思います。

―「NOW ROOM」のように、「スマホだけで簡単に住める」というサービスが増えています。一般の消費者から見れば便利なサービスですが、これまで成功したサービスはありません。その理由は何だと考えていますか。

そこは、私たちもこれからがチャレンジだと思っています。

例えば、一般の賃貸物件を借り上げて、家具家電を設置して貸すモデルでは、どうしても短期での急成長を求められるスタートアップにはリスクがあります。まずは、テクノロジーで在庫の可視化を行い、その空室在庫をこれまでと同様のリスク対策をして、ユーザーに貸し出すことを目指したいと思っています。

―今後の展望について教えてください。

まずは、ユーザーにとって提供できる物件の数と種類を増やすこと。

不動産のオーナーや管理会社が在庫を提供してくれる仕組みを、「NOW ROOM」のサービスとして追求したいと思っています。

また、住まいに困っている人の中には、同時に仕事に困っている人も多い。人材やフリーランス系の会社との提携を進めています。

住まいと仕事の面で困っている人に対して、「NOW ROOM」を通じて住まいを提供することで貢献して、短期賃貸市場で業界に貢献できる会社になりたいと考えています。

LivingTech・千葉史生社長 撮影=リビンマガジンBiz編集部
 
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